第16話 動物のお歯なし

文字数 952文字

 昨夜、動物メインのテレビを観ていた。なんでも「ワラビーの前歯が折れた」とか。驚いて走りまわり、壁に激突したのだそうだ。正面を撮っていても、歯を見せてくれるわけもなく、折れた側の頬辺りが膨らんでいた。見るからに痛そうだが、無表情。齧歯類(げっしるい)だから、また生えてくるよ、きっと……

 ウチにも以前、齧歯類(げっしるい)である、ウサギがいた。12年ほど生きた。長い方だと思う。途中、危機もあった。それは歯が原因で。あるとき餌も食べず、うずくまっているウサギに、子どもが気づいた。理不尽にも、普段のお世話は私の仕事だったのだが、こういうときに限って触るだけの人の方が鋭い。なにやら、口元も臭うらしいと私に報告。いつもと変わらぬお世話をしていたのに、どうしたんだ?

 その後、動物病院へ連れていき、すぐにわかった。「奥歯が伸び過ぎている」
ウサギの餌は2種類。ペレット(栄養が詰まった固形物)と牧草だ。ペレットの方が美味しいのか、先に食べ終え、牧草をつまむのが、ウチのウサギの食べ方だった。とにかく歯を削ってもらいたかったのだが、当時の年齢は8才。充分に高齢で、麻酔をかけての治療に耐えられないと言われ、すごすごと帰宅。家族会議の末、自然に任せるとなった。

 ところが、お世話係の私は、諦めきれない。伸びてしまった歯を自身で削らせるには、牧草がその役目を果たす。無い知恵を絞って考えた先は、ウサギの専門店への相談だった。さっそく赴くと、見たこともない牧草が所狭しと置いてあった。店員さんに現状を伝え、アドバイスを受けた中に、私の至らなさがあった。
「牧草は毎日換えなければ、ダメですよ。古いものは、香りが飛んで、食べませんから」
私は、まだあるからと、牧草を毎日変えることがなかった。
「ごめんなさい」

 帰宅後、ウサギのケージ(小屋)を寝室に置いた。急変を心配したのと、ウサギが起きている限り、牧草を食べさせたかったという理由で。柔らかく、香りのいい牧草を手から口元へ。数日間……
その甲斐あって、12才まで生きてくれた。

「歯は一生の財産」
私は幼い頃から、母にそう言われて育った。80才を過ぎた当の本人は、現在、総入れ歯。私に虫歯がないわけではないが、全て治療済み。母の名誉のために言っておくが、むし歯で歯を失った訳ではない。病のせいで仕方なく。
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