2 『アタルヴァ・ヴェーダ』

文字数 2,059文字

『リグ・ヴェーダ』にでてくる神々の中で、いわゆる最高神みたいなのはいるんですか?
いないね。まさに多神教
そうなんだ~

ただ、『リグ・ヴェーダ』の讃歌をよく見ていくとね、多神教的な神々への讃歌から、次第に、この世界(宇宙)はどのように誕生したのか、的なことに関心が向けられていく様子がうかがえる。

で、有名どころでいうと「千頭・千眼・千足を有す」巨人(?)プルシャなんてものがでてくる。

あ、ちなみに「千」というのはただ単に無限にデカイことを表現してるだけね

神々がこのプルシャを葬り祭祀を行ったとき、口からバラモン(祭官)が、腕からクシャトリヤ(王族)が、腿からヴァイシャ(庶民)が、足からシュードラ(奴隷)が生まれたとする。

また、その意(思考)からは月が、眼からは太陽が、口からはインドラ神とアグニ神が、気息からは風が・・・・・・といった感じで、様々なものが生まれていく

こういうの、巨人解体神話といってね、じつは世界各地の様々な神話に同様なパターンが見られる。いずれまた紹介しよう
バラモン(祭官)、クシャトリヤ(王族)、ヴァイシャ(庶民)、シュードラ(奴隷)って、カースト制のことですね

いや、カースト制じゃなくてね、正確に言うとヴァルナ制

バラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャ、シュードラという、この4つのヴァルナ(種姓)をベースにね、時代が流れていく過程で、いわば職能集団であり、地縁・血縁的な共同体でもあるジャーティーという区分がでてくるんだ。

たとえば鍛冶職人のジャーティとか、清掃職人のジャーティとか、陶工のジャーティとか・・・・・・その数はね、今や2,000~3,000あるという。

ちなみに、異なるジャーティーの人とは婚姻障壁があったりする。

このヴァルナ&ジャーティーの仕組みをね、遅れてやってきた西洋の人たちがカースト制と命名したんだ

カースト制って、差別の温床になってるんですよね?

ん~、じつはね、この4ヴァルナのさらに下にね、不可触民のクラスがあるんだよ。彼・彼女らは自称でダリットと呼ぶ。

このアウト・カーストのダリットがね、まさに悲惨な差別を歴史的に受けてきたんだ。

近年、インド政府はこのクラスを対象にアファーマティブ・アクションを行ってる。

けれどその一方で、ダリットの方が上位カーストより結果的に優遇されてしまうと、「なんでじゃい!」と抗議の運動が発生したりする。

ちなみに、優秀な頭脳がIT産業へ流れていくのは、当たり前だが、新興産業であるIT分野が伝統的なジャーティーの中に入ってなかったからだ。

カーストに縛られず、実力を発揮できるのがITだったわけ

あ、なんかそういう話、テレビで見たような・・・・・・

さて、『リグ・ヴェーダ』の話に戻ろう。

この『リグ・ヴェーダ』は天啓聖典(シュルティ)といってね、人間の手による(人為的な)ものではなく、太古の聖仙(リシ)による神秘体験によって、「聞かれた(シュルタ)」ものとされている

そうやって聖視するわけですね
なんらかの神秘体験をつうじて言葉を紡いでいったのだろう、ってとこはね、たぶん当たってるとは思うけどね

さて、時代が下ってくると、当然のごとく、バラモン(祭官)たちの祭祀が複雑かつ体系化してくる。

①『リグ・ヴェーダ』の讃歌を用い、神々を祭場に招き、現世利益(あるいは来世利益)を得んとするホートリ祭官の他に、

②ウドガートリ祭官

③アドヴァリウ祭官

④ブラフマン祭官

の役割分担が生じる

ウドガートリ祭官は、『リグ・ヴェーダ』に収められた讃歌を活用し、歌詞をつくり、一定の旋律にのせて歌う。

で、その歌詠をまとめて『サーマ・ヴェーダ』が誕生する

アドヴァリウ祭官は、祭祀の実務を担い、供物を神々に捧げるのだが、その際に唱える祭詞がまとまって『ヤジャル・ヴェーダ』が生まれる
ブラフマン祭官は、祭祀全般を総監するんだが、吉祥増益と呪詛調伏の呪詞をあつめた『アタルヴァ・ヴェーダ』をまとめた
なんか、ややこしくなってきましたね
べつに聞き流してくれたらいいよ
そうします(笑)

ちなみに、『アタルヴァ・ヴェーダ』もまた辻直四郎さんの訳でね、岩波文庫版があるから、実際に読んでみることができる。

少し、引用してみるよ

え~、それって呪文でしょ。

なんか怖そう

じゃ、まずは面白どころから

[頭髪の生長を増進させるための呪文]


汝の頭髪にして脱け落ちたるもの、毛根もろとも切り取られたるもの、ここにわれそが上に、一切を癒す薬草を注ぎかく

なんだそれ~
ちなみに、どんな儀式がともなってたんだろうか・・・・・・

[恋敵の女をたおす呪文]


黄泉の国知るヤマ王(死神)よ、この忌わしき娘子を、なれの嫁とし迎いとれ。この世のうちは味気なく、親同胞の掛り人、嫁がでかこて憂き思い

三角関係には、太古の昔から苦しめられていたんですね。

人間って、変わりませんね

さて、お次は・・・・・・
もう充分です

[参考文献]

・『アタルヴァ・ヴェーダ讃歌』辻直四郎訳、岩波文庫、1979

・貫洞欣寛『沸騰インド:超大国をめざす巨象と日本』白水社、2018

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登場人物紹介

デンケンさん(49)・・・仙人のごとく在野に生きたいと思う遊牧民的自由思想家

釈愛理(45)・・・真宗大谷派のギャルな御院家さん


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