10 『ウパデーシャ・サーハスリー』散文篇(1)

文字数 1,929文字

さて、『ウパデーシャ・サーハスリー』は①韻文篇と、②散文篇とに分かれている。

②散文篇は、師が弟子を導くというスタイルで、それこそ学習指導要領みたいな感じになっている。

そこで、まずはこの②散文篇を取り上げよう。

それこそシャンカラの弟子になったつもりで、聞いてみてくださ~い

は~い、シャンカラ先生

まず、そもそも何を学ぶのか、何を目標とするのかというと、輪廻からの解脱だよ


わたし輪廻転生なんてまったく信じてませんから
もちろん、ぼくも信じてないよ。ていうか、そもそもぼくは無神論者にして無「魂」論者だからね
それはさておき、シャンカラの場合、世間一般でイメージされているような輪廻観(生まれ変わり)のほかに、こういってよければ日々輪廻みたいな輪廻観があるんだ
日々輪廻?

簡単に言うと、今日一日、嫌なことがいっぱいあったりしてね、「あぁ、ヤな一日だったなぁ。やっと解放されたなぁ」とか思って眠る。

しかしまた朝になれば目覚める。「うわ、また嫌な一日の始まりだ。仕事いきたくね~」とか思う。

それが、日々輪廻、毎日が輪廻、平たく言えば、嫌なことの連続・・・・・・


べつに毎日毎日が嫌なことばかりの連続ではないでしょう
いや、べつに毎日が楽しくて楽しくて仕方がない人なら、シャンカラのところへは行かなくていいでしょう
逆にそうではなく、それこそ鬱になってしまうくらい毎日が息苦しい人は、シャンカラの思想に出会ってみるのも悪くはない

つまり解脱とは、この世の一切苦からの救済をいい、

輪廻とは、終わらぬ果てなき息苦しさのことだと言ってよい

仏教でいうところの悟りみたいなもんかな?

まぁさしあたり、そういうことにしておきましょ~。

そのほうが、愛理さん、分かりやすよね?

うん、まぁ

『ウパデーシャ・サーハスリー』散文篇は、次のように語りだされる。

引用しよう

「1 さて、解脱に導く手段を、解脱を願い、(この教えを)信頼し、求める人びとのために、教える方法を説明しよう。 2 この解脱に導く手段とは、(ブラフマンの)知識である・・・・・・(以下省略)」
でた! ブラフマン

ブラフマンには、真実の言葉なんていう意味が込められている。

また、ブラフマンというのは、動詞語根「ブリフ」から派生した名詞で、「拡大する力を持つもの」「膨張する力を持つもの」というのが原義らしい。

つまり、ブラフマン=世界を生成する真実の言葉ってことになるんだが、ややこしくなるから、さしあたり聞き流してもらってよいよ。一通り説明し終わってから、もう一度戻ってくることにする

は~い、そうしてくださ~い
さて、シャンカラがいきなり冒頭でね、解脱へ至る手段・方法は知識である、と宣言してるところがね、ぼくは極めて重要だと思う
え、何でですか?

つまり、行為じゃないってことだよ。

出家するとか、山ごもりして修行するとか、肉食をやめるとか、セックスしないとか、そういうことじゃなくて、つまり行為によって解脱するのではなく(悟りを開くのではなく)、シャンカラはね、正しい知識が解脱(悟り)へ導いてくれる、とするんだ。

主知主義的だといってよい

なるほど
ぼくはね、この点については、完全にシャンカラに同意するよ

先生はカラダを酷使するの嫌いだからでしょ~。

去年、滝行しに行きません?って誘ったら、「冷たくて心不全になったら、どうすんの~」とか言ってたでしょ~

ぎくっ

ま、それはさておき、じつはシャンカラの批判の矛先はね、祭式至上主義だった当時のバラモンたちなんだよ。

つまり、神々を祀りゃ解脱できるってもんじゃねーよ、と言ってるわけだ。

じつはコレ、言ってることがね、かのゴータマ・ブッダと同じなんだ。ブッダもまた「祭式で解脱」なんていう短絡的な祭式主義を否定した。そこから、仏教がスタートするんだよ

ちなみにブッダは、祭式至上主義に批判的であるばかりか、バラモンという階級自体にも批判的だ。というのも、生まれによって人はバラモン(聖者)になるのではない、とするからだ。

たとえば『ブッダのことば』(岩波文庫、P95)に、それこそブッダの言葉としてね、「生まれを問うことなかれ。行いを問え」なんてでてくる。

もっと言うと、バラモンの出自であるシャンカラはね、教える相手を選別したが(師資相承)、ブッダは広く<法>を説いた。しかも対機説法といって、相手の素質に応じて柔軟に説いている。そのへん、(シャンカラよりも心が広くて)ブッダすげぇな、とは思うよ

うん、わかります。ブッダについてなら

まぁ、いずれにせよシャンカラはね、正しい知識によって解脱が得られるとする。

ここがね、まずは根本的な柱だよ。彼の思想のね

で、正しい知識って何なんですか?
それはね・・・・・・次回ってことで
は~い
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

デンケンさん(49)・・・仙人のごとく在野に生きたいと思う遊牧民的自由思想家

釈愛理(45)・・・真宗大谷派のギャルな御院家さん


ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色