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文字数 817文字

 三つ程。
 なぜか頭から離れず、毎日寝る前などにふと思い返してしまう小説の台詞がある。
 一つが、江國香織さんの『なつのひかり』。
 登場人物の一人、順子さんが主人公に向かって教え諭すような口ぶりで、ある台詞を話すシーンがある。
「世の中には二通りの人生がある。臨機応変を旨とする人生と、不変を旨とする人生と。私はいつだって前者を選んできた」
 ああ、深いな。このシーンを目にした瞬間になにを言うでもなく全身で直感した。これは一生忘れられないだろうな、と。
 次が三浦しをんさんの『まほろ駅前多田便利軒』。
 誰もが知る名作「フランダースの犬」は、ハッピーエンドか否か。孤独を抱える不良少年がその名作を通して主人公たちの目の前で自身の考えを述べる。
「親が最初からいないのと、親に無視されつづけるのと、どっちがましかってことだよ」
 実際どちらがましなのだろう。この少年の気持ちを理解することができなかったから逆に強く印象に残ったのかもしれない。
 そして最後にくるのが伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』だ。しかしこの台詞の内容はあまりにも刺激的すぎて全部は書けない。なので台詞の後方部分だけを簡単に紹介しようと思う。
「〜の絶頂感が、子に六十年の苦痛を強いる」
 なんのこっちゃ笑 これだけでは全然伝わらない。しかしまあ作品のテーマがけっこう重ためなので、扱っているワードもなかなか際どいものが多く、こればかりは仕方がないと思う。
 さて、強く印象に残っているこれらの三つの台詞になにかしらの共通点はあるのだろうか。結論から言おう。全くなにもない。強いて挙げるなら「決して明るくない場面で発せられた台詞」くらいか。
 正直に言ってしまえば、物語の台詞なんてそんなものだと思う。私意や他意などをはさまない、日常的な台詞だからこそ却ってインパクトのあるものとして深く記憶に刻まれるのである。
 さあ次はどんな台詞に心を揺さぶられるのだろうか。今から楽しみで仕方がない。
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