第18話 掃除の跡、めじろは去って行く

文字数 817文字

 家の窓から、わずかに見える神社の桜は見事である。偶には花見客がコンビニ弁当を持参し
ピンクの風景を見上げる。一度、愛犬メジロを連れて行ったことがある。
 ゴザを持参し、弁当を広げた。「メジロは人間不信」で落ち着かなく周りをきょろきょろし「早くお家へ帰りたい」と吠え出す。「よしよし」と宥めるが、わがまま娘は盛んに「桜興味
ないし、飯は内で食おうワン」と鳴く。それ以来、花見に誘っても「絶対行かない」と、首輪
を引っ張っても、足を踏ん張って抵抗する。その姿も可愛い思い出だ。
 かみさんが花粉症でもあり「この時期に外で弁当などとんでもない」と、メジロと共同作戦
を張る。一人で竹ぼうきを持ち、神域も心も清め、桜を堪能するのも気楽でいい。
 自営の商売が少し忙しくなり、土日の掃除をさぼっていた。草が随分生えてきただろうなと
思った。神社に行ってみると、私が掃除している頃より、更にきれいになっている。
 私の場合、掃いた落ち葉を両端のフェンス側に掻きよせ積み上げていく方式である。1年に
一度、この落葉をトラックで運んでくれる人がいる。
 フェンスの外の斜面に草やツタが這いつくばっている。このツタもボランティアらしき人が
コツコツと撤去されてる姿を見かける。善意の人達が、ばらばらにこの神社を小ぎれいにして
やろうとしているのだと勝手に思っている。
 最近、毎日のように庭の草を抜いているのは、神社の3軒先に住む75歳位のご婦人だった。
「この地に住み40年、私が平穏に過ごせるのは神様のお陰もある。お世話になっているので、
お礼に毎日掃除を最近、始めました」と話した。 奇特な人がいるものだ。「箒がよくちびる
んですよ」と言う。箒だけは、古くなったら私が寄進しようと心がけるようにした。
 それ以来、いつ行っても神域は見事に掃き清められている。狛犬は「時の流れに身を任せ」
と歌いながら、端然と世の中の流れを眺めている。
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