第12話 鳥居の額束

文字数 625文字

 新しい鳥居の庭はすべて掃き清めている。これに2年の歳月がかかった。土日曜の週二日で2時間の奉仕では、この程度しかできない。草も抜き、枯葉も掃きよせると、参拝する人も出てきた。稲荷の祠に10円や100円が置かれている。
 鳥居の6本は真新しいが「なんと半分腐った額束は、金網フェンスに立て掛けてある」柱だけは変えれば事が済むと思っていらっしゃるのだろうか。「ままよ、鳥居だけでも再建して頂けば、この上もございません」と心で感謝し、額束を預かり我が家へ持ち帰った。補修できないかじっくり検討して見た。
 長方形の厚板に「稲荷明神正一位」と黒字で書いてある。3分1は腐敗欠落している。勝手に修復すると「罰が当たる」と神主に言われそう。「そんじゃ辞めた」と歯向かえばいい。何もしないよりいい。
 木枠を外し、腐れは切り落とし、同じ寸法の厚板をボンドで張り付けた。この工程は見せられないが誰も気づかないだろう。一連の子作業は手間がかかり、素人臭いが、見かけは遠目には分からない。木枠も新しくし、赤ペンキをたっぷり塗った。文字はトレッシングペーパーでで模写し黒ペンキで書いた。悪筆ながら、縁どりし遠目には分からない。
 脚立を車で運び、赤い額束を鳥居面に打ち付けた。車に戻ると、パトカーが駐車違反黄色紙を貼っていやがった。「世の中、神も仏もないものか」と悔やんで罰金1万円を払った。
 しかし、遠くから見ると「見事な稲荷さんの鳥居が再建された」と誰かが思ったことだろう。
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