第26話 系図

文字数 763文字

父が亡くなり仏壇を相続した。巻物の家系図があり、先祖の名前が書いてある。中には経歴を書いた部分もある。妻は「何処にでもある物を書き写した偽物に決まっている」と相手にしてくれない。末裔の私としては、不安はあるものの、本物であると信じたい。
 現在は、インターネットに膨大な情報があり、誰にでも手に入れることができる。古文書をもとにして一五六九年の出来事をまとめているサイトを私は見付けた。「永禄十二年一月五日、室町幕府足利義昭は、仮御所としている本国寺で三好一族に襲われた。家来は負傷者をだしながら、守り抜いた。織田信長は連絡を受けるや、雪の中を二日間掛けて、尾張から御所に着き、三好一族を蹴散らした」。
これを本能寺の変というらしい。六月には禁裏で義昭は征夷大将軍に任命された。その年の義昭や信長や三好の行動が克明に記されており、この事実は間違いないと思う。
 家の家系図の中に、下村市之亟の生涯の記録がある。原文には「永禄十二年巳巳年正月いつか三好之党政足利将軍義昭公於京師戦」とある。更に、原文では「六条本国寺之日従義昭公抽象衛槍俗謂之杉先之槍」とある。我等が先祖市之亟が槍を振り回し主君を守り、杉の先の槍の働きをしたということなのだろう。この記録は歴史家の文章と一致する。
 明治生まれの祖父が、巻物を引き継いだ。その時代、庶民には多くの情報は手に入らなかった。作り話であれば、内容や時期に、誤りやズレがあるはずだ。仏壇にある先祖のそれぞれの位牌とも年月日が一致する。二つの実在するものからして、この系図は本物であると思いたい。市之亟は、当時、足利義明の下で家来として働き、首級をあげたらしい。あの有名な信長を遠くで見たかもしれないと、楽しい想像をした。

お宝探偵団に巻物をだし、真偽のほどを確かめ、妻の鼻をあかしたい気分である。
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