第3話 いびきと安眠テープ

文字数 1,214文字

 結婚して、男女が一緒に寝れば、子供ができ、人類は存在し続ける。人は期限がくると消え滅びゆく。父は老人となり、死ぬ前は「死んだら何にも無くなる」と語り続けた。「警告なのか、口惜しいのか、怖いのか」解らないが、真実である。生きるという時間は、与えられもので、千差万別である。他人が納得しなくても、それぞれに人生がある。価値があるのかないのかは誰が判断するだろうか。
 「口」という日本語は、単純明快である。見れば何を表現しているのか分かる。「Mouth」は英語を知ってれば分かるが、そうでないと意味不明。「くち」と言い、指させば意味が分かる。赤子は耳と目で確認し「くち」が「口」の意味を理解し、自分でも同じように「くち」と音を発してみる。成長し流ちょうな言葉を使う。
 もし口にガムテープを貼れば、「くち」と言えない。それだけではない、食べれなくなる。飲めなくなる。死んでしまう。しかし医学では点滴し脳死した人でも、何年も生かし続けられる。
 何年も同居している妻が「いびきがうるさい」「別室に寝て」という。旅行したとき同室だと「鼾で眠れない」と苦情を言う。精神的にも男女仲良くしたいのに、お世話になっている女性に言われれば、やむなしと別室で寝る。隣室でも大音響が聞こえるらしい。眠っている私には全く悪意はなく、耳に入ってこない。無意識な行為は法律的に無罪であるはずなのに。女性と一緒にいれば良いことの方が多い。悪いことも少しはある。
 「おやすみ安眠テープ」を妻の勧めで買ってみた。ネット社会でこの効率を喧伝している。ネットを鵜呑みにすると、喉に詰まり、大惨事になることもあるので、充分な検証が必要だ。口にテープを貼って寝たら、気づかぬうちに鼻が詰まり、息が出来なく死んだりしないか飲み込んで腸で痞え、腸閉塞であの世へ行ったりしないか。鼻に移動し両方塞がり呼吸停止になりはしないか。不安材料が無意識状態で監視人もなしでは事故にならないかと不要な不安を持つ。情報を知って以来も「安眠テープ」は暫らく買わなかった。
 鼾をかいたら、口を開け腔内が乾燥し、ガビガビになり湿った舌で嘗め回さなければ、修復できない。口を開け息をすると舌が喉を塞ぎ、時に無呼吸状態になり、息が止まるらしい。「死んだのかと思い確認すると、プーと息を吐き、呼吸を始める」と妻は報告する。
 無呼吸であの世へ行くのなら、知らない内に死ぬのであり「ぽっくり逝くのが一番」と年寄りはいう。母もくも膜下出血で突然亡くなった。本人も苦しみが瞬間であったことは良かったのではないかと推測する。天国で頷いている母の気配を感じる。
  今、寝起きに文を書きながら「安眠テープ」を貼っている。脳が活性化されるのか、文が円滑に走る。アイデアが次々浮かぶ。これは口にテープをはったおかげだ。
 貼って生活するといろいろな障害があるだろうなと目を白黒して考える。色々な想像が次から次へと浮かんできた。
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