第11話 壊れた鳥居

文字数 664文字

 御影石の鳥居は威厳を保ち岡部氏の名前を彫っている。材木の鳥居は10年過ぎたのか、朽ち果て赤い柱だけ残っている。無残な姿を晒すより「いっそのこと切り倒せばいいのに」と思うが誰も祟りを恐れ自然に任せる。笠木と額束だけは、腐ってはいるが厳かに枯葉の上に揃えてある。「心或る者に金持ちはいないのか」。修復は不可能なくらい腐っている。新品に建て替えるしかない。「お前が替えろ」と言われそうだが、財布が否決する。
 元旦、参拝したとき私は決心して、狛犬に打ち明けた。鳥居再建のため、どこかの篤志家を探してみる。稲荷は商売の神、地域の商売人に呼びかけ募金を募る。これは初夢の物語で見たが叶うまい。遠い氏子にお願いする。見たこともないから付き合いもないし、金を出しそうに無く、舌なら出す。
 商工会の年始で、初対面だが面倒見の良さそうな他所の区長がいた。「太賀神社の壊れた鳥居なんとかなりませんかね」とおどおどしながら、お願いしてみた。「市との会合の時、話してみましょう」という。外交辞令も多い世の中だが、うちの地区の区長の何もしない口調よりは益しだ。
 次の年の新年会、例の区長に尋ねると「私も動きましたよ。しかしなかなか宗教には町は金を出せないと言うんです」一応は談判してくれたことに深く感謝した。
 次の年の新年会、例の区長は「いやー氏子総代の岡部さんに、稲荷の鳥居が折れて、尖ったまま残っています。子供が遊んで突き刺されたら大事です。寄付願いませんか」と口説いと言う。
真新しい鳥居が6本建てられていた。世の中、捨てる神あれば、拾う神あり。
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