第15話   往時を偲ぶ材木商

文字数 815文字

昔は材木屋が近くにあったが、最近はDIYで売っており、品種は限られている。都市高速の
近くに井上材木店があり、ウッドデッキの古い切れ端を持って行ってみた。社長は留守だった
が老齢の営業マンがいた。
 奥行のある倉庫に材木を縦に並べ立て掛けている。「教えてもらいたいのですが、時間
いいですか」と問うと。「ああ良いよ」と答えた。
 テーブル台にするのか、古木を縦切りにした分厚く長い木材がある。老営業マンは説明する。
「原生林に生えていた年代物で、これが杉で、ケヤキで、栃の木は色が白い。値段は高い」。
愛しそうに商品を見る。 縦切り板に真っすぐな年輪が見え「白い部分を夏目、筋の赤い部分を
冬目と我々はいう」。
 襖と天井の間に飾る「欄間」が何本も立て掛けてある。「これは屋久杉で数百年経った年代
物で、職人が薄い板をこすり、腐った穴も模様として磨きあげたものです。これらの杉の欄間
で割れが少ない。ヒノキは割れやすいので向かない」と専門の話は続く。
 今は売れないが、博物館のように彼が木を眺め堪能しているそうだ。「大正・昭和時代に、
料亭でテーブルや欄間を座敷に使っており、この商売は繁盛した」と思い出す。「私は親父か
ら色々教えて貰った」この話しをしてくれる人は、86歳の会長で息子が社長だった。
 「こちらを見せましょう」と別の部屋の引き戸を開けた。そこには円柱で長さが3m級の各種
床柱が、立並んでいる。肌色の艶のある物。若木に枠を嵌め、絞り模様のある物。床柱は天井
から床下まで突き抜け設置するという。
 丸柱の裏には縦に切れ目があり背割れといい、表の割れを防ぐ。数々の専門知識を教えて
頂いた。「久々に木の話をした」と会長は目を細めた。
 帰り道、立派な日本風の家があった。磨いた丸太を横長に張りだし、軒下や玄関、柱の数々
に贅を尽くした建物だ。門札を見ると、田仲と書いてある。材木で大儲けした往時を偲ばせる。
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