第24話 みるくの犬小屋

文字数 698文字

梅の花も咲き、寒い冬も終わりそうな気配を感じる。昨日はポカポカと暖かかったのに、今朝は風が冷たい。り抜けた時期はもう早春である。
我家の庭にも豊後梅の蕾がつき、白い花が咲いた。メジロが二羽止まり、忙しく枝を渡る。首を左右に振り警戒し、花をつつく。木の下には水仙やクリスマスローズが今を盛りと咲いている。エゴニキの細く長い枝にも、たくさんの黄緑がついてきた。早春が自然界が活気づき、我々に希望や喜びを感じさせてくれる。私の一番好きな季節である。
 エゴノキん下に犬小屋があった。愛犬は散歩から帰り、リードを放すと、一目散に庭を走り、建物の角を猛スピードで走り抜けた。その飛ぶような、しなやかな姿は競走馬のように格好いいのである。「みるく」をみていると心が癒され、温かい家庭を作るのに役立ってくれたと思う。また、家族以外の者には吠えて威嚇し、番犬の役目も立派に果たしていた。散歩中の赤い首輪を付けた白いみるくを見て、何度「可愛い」と言われたことか、すこし自慢だった。
 そんなみるくも十六才の老犬となり、ガンを宣告された。家族の必死の看病とともに、病魔と壮絶な闘いをしてきた。最後の四日間は、飲むことも食べることも出来なく、ガリガリに痩せ衰えた。神様が「もうそんなに苦しまなくていいよ」と、御前一時、動物の天国へと旅立たでてくださった。
主を失った犬小屋は解体した。庭での草むしりや木の選定作業のたびに、みるくは寄って来た。いつも傍らにいてくれた。「庭仕事に疲れたら、暖かい日差しを浴びてお茶でも飲もう」。だけどいつもいた君はいない。
早春は活気溢れる楽しい時期ではあるが、我が家にとっては悲しい季節となった。
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