第44話 ヒフミを探せ!!

文字数 1,569文字

私と妻が道を歩いていた。
妻はキョロキョロと周りを見ながら歩いている。

「どうしたん? 何か探してるん?」

私が尋ねたら、妻は「ヒフミ」と言った。
ヒフミ……阿部一二三のことだ。

その前日、妻はオリンピックの柔道の試合を見ていた。

「詩ちゃん、かわいそうにー。頑張ったのになー」

試合に負けて泣き崩れる妹を見ながら、「よくやった、よくやった」と妻はテレビに話しかけていた。

そして、兄の試合。
「妹の分まで、よく頑張った!」と妻はテレビに話しかけていた。

試合が終わったので、私は目黒区報で読んだ阿部兄妹情報を妻に披露した。

「そういえば、阿部兄妹の練習している道場、目黒区にあるで」
「どこ? どこにあるん?」

妻は私の小ネタに興味を持った。

「林試の森公園の裏くらい。武蔵小山が一番近いかな」
「へー。じゃあ、この辺にヒフミと詩ちゃんが歩いてるかもしれんよな?」
「そうやな。いるかもなー」

そして、妻は道を歩いている人をジロジロ見ている。
すれ違う人が阿部兄妹かもしれないから。

「阿部兄妹、見つけたらどうするん?」
「そーやな。お兄ちゃんには『おめでとう!』やな。妹には『頑張ったなー』やな」

どういう立場からのコメントかは知らないが、妻は阿部兄妹に会ったらそう言いたいらしい。
まだオリンピックは続いている。だから、阿部兄妹はまだパリにいると思う。
探すなら来週かな……

「見つけたら、すぐに教えてな!」

私に指令が下った。これからしばらく阿部兄妹探しが続くことになりそうだ。


ところで、うちの妻は目が悪い。
目が悪いのにメガネもコンタクトもしていない。
だから、阿部兄妹とすれ違っても気付かない可能性が高い。

少し前に、ドン・キホーテに行ったらアインシュタイン稲田が買い物をしていた。
さすがに分かるだろうと思ったけど、妻は気付かなかった。

ホリプロから出てきたバナナマン日村とすれ違った。
でも、妻は気付かなかった。

分かりやすそうな芸人とすれ違っても、妻はスルーしている。

阿部兄妹は無理だろうな……私は阿部兄妹を見つけたら、妻に教えてあげることにした。


***


さて、YouTubeに話を移そう。

私の妻は書道動画をYouTubeに投稿している自称ユーチューバーだ。そして、私は妻のアシスタントとして、妻の書く動画を撮影、編集、YouTubeに投稿している。

「いま何人?」

私はこのセリフを一日何回聞いているだろうか?
YouTubeのチャンネル登録者数をチェックするのが、妻の日課となっている。
妻は自分が大好きだ。だから、チェックは怠らない。

前回、チャンネル登録者数が1,000人を突破したと書いた。
実は、チャンネル登録者数が1,000人を超えると、999人までとは仕様が異なる。

ちょっと分かりにくいので、YouTubeアカウントの画像を掲載しよう。




赤く丸で囲んだ箇所を見てほしい。
これを書いている時点で、チャンネル登録者数は1,069人だ。
しかし、画面上ではチャンネル登録者数が1.06千人として表示されている。

チャンネル登録者数が10人単位で切り捨てして表示されるようになるのだ。
もちろん、アカウント管理者は1人単位でチャンネル登録者数を見ることができる。

チャンネル登録者数が1,000人を超える前、妻は増減を1人単位でチェックできた。
しかし、チャンネル登録者数が1,000人を超えてから、妻は10人単位でしか増減をチェックできなくなった。

だから、妻は私(アカウント管理者)にチャンネル登録者が何人(1人単位)なのかを確認してくるのだ。

「いま何人?」
「1,069人、あと一人で1,070人になるでー」
「そうかー」

10人単位で良くないだろうか……と私は思うのだが、妻が楽しみにしているから言い出せない。

こうして、自称ユーチューバーは今日もチャンネル登録者数をチェックするのであった。

<つづく>
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