第1話 木が伸びてるーーー!

文字数 1,599文字

「木が伸びてるーーーー!」

早朝の我が家に妻の声が響く。いつもながら騒がしい。
新聞を読んでいた私は妻に尋ねる。

「そんなに?」
「うん、100超えた!」
「へー、すごいやん」

何の話かというとYouTubeの再生回数だ。我が家の観葉植物が成長した話ではない。
妻はユーチューバーになった。

うちの妻は「〇〇してみたいんやけど、どう思う?」とよく言う。

今回は「ユーチューバーになってみようかと思うんやけど、どう思う?」だった。

妻の目指すユーチューバーは、顔出しせずに、時間を掛けずに、面倒なことはしないユーチューバー。
そんなことでユーチューバーになれるなら、誰でもなっている。
結論として、うちの妻は書道をYouTubeで配信するユーチューバーになった。

経緯は『妻がユーチューバーになると言い出したら、どうするのが正解か?』というのに書いたので、興味があったら見てほしい。

ユーチューバーの妻が書く字を私がスマホで撮影、パソコンに取り込んで字幕と音楽を追加し、YouTubeにアップロードする。
私の負荷がすごいのだが、この不公平感について文句は言わない。妻がやる気になっているのだから、サポートするのが私(夫)の役目だ。
夫婦関係を円滑にするためには、こういうことも必要なのだ。多分……

念のために言っておくと、私はYouTubeをほとんど見ない。だから、何が流行っているか知らないし、時間を掛けて動画を作ろうとも思っていない。この結果、適当に作ったクオリティの低い動画がアップされる。
他のクオリティの高い動画と比較すると一目瞭然。うちの動画はゴミだ。
言い換えれば、我が家は公共の電波を通じてゴミを配信している。

こうして、私の自称ユーチューバーをサポートする生活が始まった。

妻が初めに書いたのは『牛』、再生回数は90回だった。
次に書いたのが『皿』、再生回数は10回だった。
その次は『門』、再生回数は50回だった。

その後も妻が書いた動画を加工してアップロードし続けた。再生回数は10回~100回未満。お世辞にも多いとは言えない。あのクオリティのだから当然だといえる。

知り合いに声を掛ければSubscriberや再生回数を増やせるだろう。
だが、このYouTubeは妻の動画を配信しているから余計なことはしない方がいい。私が再生回数を増やすと、再生回数が伸びないのが私の責任になる。それに、知り合いに告知するとそれなりのクオリティの動画を作らなくてはいけなくなる。
純粋な動画配信以外の方法で再生回数を増やすことは避けたい。
だから、インチキはせずにリアルな再生回数を上げていくことにした。

動画の字幕は全て英語だ。視聴エリアは日本も含まれているが、海外の方が多い。
アジア圏、特にインドが多くてインドネシア、タイ、アメリカが続く。

――インド人は書道好きなのか?

正直、よく分からない。
インドは14億人超の世界最大の人口を有する国。
だから、人口の1%でも1,400万人。東京都の人口とほぼ同じだ。0.1%の140万人でも滋賀県の人口と同程度。
要は、書道好きの割合が多くなくても絶対数として多いのだと思う。

ちなみに、インドにはヒンディー語、ベンガル語、テルグ語など様々な言語が存在していて、巻き舌で話す言語が多い。だから、インド人が話す英語を日本人が聞き取りにくいのは、語尾が巻き舌で喋るインド人が多いからだ。

話は逸れたが、まあ、そんなこんなで私は妻の動画をアップロードし続けた。

そして『木』をアップロードした翌日、再生回数が100回を超えた。
少ないけど、二桁から三桁に再生回数が増えたのは妻にとって凄いことだ。

「やっぱ、木の最後のシュッてとこがいいんかな?」
「かもなー」

再生回数が100回超えてご機嫌な妻。
趣味のユーチューバーにはこれくらいがちょうどいいのだと思う。

その後、飛躍的に再生回数が増えるのだが、それは別の機会に話そう。

<続く>
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