第24話 主役の座を譲ってやろうか?

文字数 1,809文字

私と妻は駅ビルから家に帰る途中、信号待ちをしていた。
信号の側にあるパチンコ店から懐かしい歌が流れてくる。

――YouはShock! 愛で空が落ちてくるー!

この歌は若い人でも知っているだろう。

あの頃、ノストラダムスの大予言(1999年に世界は滅亡する)がブームだった。
世界が核戦争に巻き込まれ、核戦争後が物語の舞台だ。

北斗神拳という拳法を習得した末っ子のK。
世界を巻き込んで壮大な兄弟喧嘩をする。

ちなみに、兄弟喧嘩の原因は女性。
Yという女性を取り合って、長男のRと喧嘩する。

そういうストーリーだ。

末っ子のKには北斗七星を模った七つの傷がある。
Sというライバルに付けられた傷だ。


信号待ちで暇な妻は私に言った。

「主役の座を譲ってやろうか?」

いつものことだが、意味が分からん。
でも、半笑いで私に言ったことから、いいことではない。

「別にいいわ。あんたが主役すればいいやん」
「まぁ、そういうな」

妻は私の胸に人差し指を突きさす。

――あー、それねー

私は気付いた。
妻は信号待ちで暇だから、北斗の拳ごっこがしたいのだ。

私も暇だから妻にのっかる。

「シンっ、やめろーーー!」

妻はイマイチな顔をしている。どうやら、予想していたセリフではないらしい。
私は次の候補を言う。

「ユリアーーー!」

妻が笑顔になった。これが正解らしい。
気を良くした妻は、もう一度私の胸に人差し指を突きさす。

「ユリアーーー!」

妻、突き刺す。

「ユリアーーー!」

妻、突き刺す。

<以下、省略>

7回終わったはずなのだが、妻は止めない。

とはいえ、妻の機嫌が良さそうなので私は信号が変わるまで付き合うことにした。

――早く信号変わらないかな……

***

さて、YouTubeに話を移そう。

私の妻は書道動画をYouTubeに投稿している自称ユーチューバーだ。そして、私は妻のアシスタントとして、妻の書く動画を撮影、編集、YouTubeに投稿している。

「もー、あかんわー」
妻が落ち込んでいる。

2月に入ってから再生回数が急に伸びなくなった。
詳しいことは分からないが、YouTubeのアルゴリズムが変わったのかもしれない。
あるいは、ソフトBANのような状態になったのか?

YouTubeを投稿していると、たまに再生回数が伸びなくなる時期がある。
2月に入るまで順調だっただけに、急に再生回数が落ち込んだショックは大きい。

――You(うちの妻)はShock!

今まで読んでいただいている人は分かっていると思う。うちの妻はメンタルが強くない。
強くないというより……弱すぎる。

「YouTubeさんに嫌われてもーたー」
「もう浮上できひんわー」
「私が調子乗ってたから、YouTubeさんの天罰が下ったんやー」

妻からネガティブな発言があふれ出す。
それにしても、「YouTubeさんの天罰」って、なんやねん……

YouTubeに嫌われると再生回数が伸びないのは事実だ。

私は特に気にしないから、妻を元気づけようとした。

「しばらく我慢したら再生回数戻るんちゃう?」
「ほんまに? YouTubeさん許してくれるかな?」

YouTubeが許すかどうかは分からない。でも、続けていればそのうち復活するはずだ。
私は適当な話で妻を説得することにする。

「登録者数が500人目前になってきたやろ?」
「そやな。500人超えたらプロチューバーの仲間入りや」
「だから、YouTubeさんが自称ユーチューバーに試練を出したんや」
「試練?」
「そう。誰でもプロチューバーにしてもたら、世の中がプロチューバーだらけになる。だから、YouTubeさんは500人直前で試練を出すんや」

※嘘である。

「ふるい落とし……みたいな感じかな?」
「そう! まさにそれ! YouTubeさんはやる気のないプロチューバーはいらんねん。雨の日も風の日も、病める日も健やかなる日も更新できるプロチューバーを求めてるんや!」

※嘘である。

「じゃあ、登録者が500人超えるまで試練は続くんやな……」
「そういうことやな。だから、500人超えるまで自力で再生回数を稼ぐ必要があるねん」
「自力で?」

「写経にチャレンジしたやろ? 他の動画にもチャレンジすればいいねん」
「へー、例えば?」

「外国人の名前を漢字で書く!」
「えー、いややー。そんなことしても面白くないわー」
「じゃあ……」

こうして、自称ユーチューバーとそのアシスタントは迷走していくことになるのであった。

迷走の内容は次回につづく。

<つづく>
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