第5話 悪口を紹介しよう

文字数 2,499文字

「誰か悪口、書いとるでーーー!」

今日も朝から妻の声が響く我が家。寝起きの妻は怒っている。
知らない誰かに……

妻は書道動画をYouTubeで配信する自称ユーチューバーだ。私は自称ユーチューバーのアシスタント。

昨日公開した書道動画に誰かがコメントしたようだ。ポジティブなコメントではなく、ネガティブなコメント。
自分の書道動画なので、妻はその悪口を書いた誰かに怒っている。
一方の私は、自分が書いた文字じゃないから何とも思わない。

「なんか、返信しといてやーー」
当然のように私に指示する妻。

「悪口に悪口で返してもなーー」
「やられたら、やりかえせーー!」

半沢〇樹のようなセリフを吐く妻。私には、どこの誰か知らない人と喧嘩する趣味はないし、時間もない。面倒くさいだけで生産性がないからだ。
私は対応策を思い付いた。

「外国人のフリしよか?」
「外国人のフリ?」
「この動画の字幕、タイトル、説明は全部英語で書いてるやん?」
「そやな」
「じゃあ、日本語分からん外国人が書いたことにしたらいいやん」
「ふーん」
「だからな、悪口コメントには英語で返信しといたらいいねん」
「英語でFu〇k you!とか書くん?」
「違うって……。『コメントありがとう。これからも頑張ります!』みたいなのを英語で返す」
「それ意味あるん?」
「日本語が通じんと思ったら、何も言ってこーへんわ」
「へー」

妻は不満そうだったが、それから私は外国人のフリをして英語でコメントに返信した。すると、悪口を書いた人から再返信がきた。

『外国の人でしたか。日本の漢字を頑張って勉強されたのですね。上手です。これからも頑張ってください!』

こんな感じのコメントがきた。自称ユーチューバーの妻は、外国人のわりには上手らしい。外国人のわりには……

妻はこのコメントを見て笑っていた。日本人は日本人に対しては悪口を言うのだが、外国人に対して悪口を言う習慣がない。
私はこういう状況を理解しているので、面倒くさいときは英語で対応することにしている。
誰も傷つかない対応、我ながら天晴れであった。

その後、妻の動画に対する日本語の悪口はなくなった。
しかし、新たな問題が発生する。

悪口が英語になったのだ。

私のアカウントで配信している妻の書道動画に対して悪口が毎日のように来るのだが、いくつか紹介しよう。
まず、以下の2つは似たような悪口だ。

『I don’t think u use right paper!』
(俺思うんだけど、お前の使ってる紙、習字用じゃなくね?)

『I feel like the paper is going to rip any second.』
(紙、破れそうじゃね?)

この動画に使っていた半紙はダイソーで買った100枚100円(1枚1円)のものだ。
「この貧乏人が!」というニュアンスが入っているのだと思う。
今は50枚100円(1枚2円)の半紙に替えたから、この手の悪口は減るはずだ。
この件は、既に対応済み。


次の悪口。

『It means big!』
(それBig(大きい)って意味!)

この動画は『大』だった。私は英語でLarge or Bigと書いていたのだが、コイツは「Largeじゃねーよ! Bigだよ!」と言いたいのだ。
日本人だったら分かると思うが、日本語の『大』には英語のLargeとBig両方の意味がある。

ドリンクの大きいサイズ=Large drink
大物=Mr. Big

このニュアンスを外国人に説明するのは手間が掛かる。
だから、放置した。放置だ。


こうして、ユーチューバーになった妻は、外国人という設定でこれからも活動していくのであった……


***


ところで、私は実生活でもネットに悪口を書かれることがある。念のために言っておくと、私は決して悪いことをしているのではない。
ポジティブなコメントはわざわざネットに書かない。だから、ネットに書かれる私に関するコメントの90%は悪口だ。書かれているのが悪口と分かっているから、私は自分の名前をネットで検索しない。

でも、社内にはそういうのが好きな人たちがいる。私の代わりに私の悪口を検索しているのだ。余計なお世話である。
そんな時間があったら、ちゃんと仕事してほしい……

私は彼らのことをストーカーと呼んでいる。

ある日、私の悪口を検索していた部下(ストーカーA)が私に教えてくれた。

「〇〇(私)さん、相関図がネットにでてますよー。ちなみに僕の名前も出てます」

ストーカーAは私の名前が入っている相関図を、うれしそうに見せてきた。自分の名前も出ているから、ちょっと嬉しいらしい。嬉しいのか?

私の名前のところには別人の写真が貼り付けてある。よくあることだ。
ちなみに、彼の顔写真は載っていなかった。

「これ、誰やねん? もっと男前やと思うんやけど……」
「いやー、どーでしょーね?」

ストーカーAはニヤニヤしながら言った。

「それにしても、会ったこともない人と繋がってるなー」
「想像で作ってますからねー」


また別の日。ストーカーBが私に言った。

「〇〇(私)さん、また書き込んでる奴いますよー」
「また悪口やろ?」
「なんていうか、創作してて……面白いですよ」
「創作? どういうこと?」
「○○さんをネットで検索して、どういう経歴で、どういう交友関係があって、どういう人物像、というのを創作してるんです」
「マジで? 暇なヤツいるんやなー」
「あー、これです」

そういうと、私にネットの書き込みを見せてくれた。あることないこと書いてあるわけだが、ちなみに出だしはこんな感じだった。

『〇〇(私の名前)は〇〇グループの総裁。……<以下略>』

――〇〇グループの総裁?

ネットに書きこまれた私の謎の肩書『総裁』。

「総裁?」
「なんか、悪の秘密結社をイメージして創作したんじゃないっスか?」
「ショッカーかっ!」

次の日。会社に出社したら廊下で部下(ストーカーB)に会った。

「おはよー」
「総裁、おはようございます!」
「だから、総裁ってやめーや!」
「いいじゃないですか。面白いし」

部下(ストーカーB)が社内に広めたことにより、しばらくの間、私は社内で『総裁』と呼ばれることになった……

<続く>
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