第26話 コイツ、パクっとるやんけーーー!
文字数 2,168文字
突然ですが、2月22日は「猫の日」。
「にゃん(2月)にゃんにゃん(22日)」だから猫の日なんですね。
しかし、今年の2月22日はいつもと違う「猫の日」になった。
それは……日経平均株価の終値が3万9,098円となり史上最高値を更新!
米国株式も好調だ。エヌビディアの売上高は前期比2.3倍となり半導体売上高世界一となった。エヌビディアの株価は爆上げ中。うちの書道動画とは大違いだ。
世界の株価が最高値を更新しているなかで、株価が上昇している企業の中には意外な企業が多く含まれている。
過去34年間における株価上昇率の第1位は1997年に上場(店頭登録)したゼンショーHD(7550)だった。1997年末の株価と比較して236倍になった。
ゼンショーHDは皆さんがご存じの牛丼チェーン「すき家」の運営会社だ。
ITやバイオなどの株価倍率が高い業種ではない。庶民の生活に密着した飲食チェーンなのに株価上昇率第1位になった。
ゼンショーは1982年創業だからバブル期にも事業を展開している。しかし、「すき家」の知名度が一気に広がったのがバブル崩壊後だ。低価格戦略を採用したデフレ銘柄の代表的な銘柄といえる。
私は就職氷河期時代だ。
諸先輩方がバブル期にやらかした後始末をしてきた世代としては(言い過ぎかもしれませんね。すいません)、ゼンショーはデフレ下を共に戦ってきた戦友のような存在なのだ。
私たち世代が「30年間やってきたことは間違っていなかった」と肯定されたような気がする。だから、この場を借りて言っておこうと思う。
――おめでとう、ゼンショー!
デフレを戦ってきた戦友として、私はそう思う。
もちろん、ゼンショーは私のことは知らないだろう。私が勝手にゼンショーを友人だと思っているだけだ。
それに、友達とか言っておきながら「すき家」に5年以上行っていない。
たまには「すき家」に行ってみるか……
**
さて、YouTubeに話を移そう。
私の妻は書道動画をYouTubeに投稿している自称ユーチューバーだ。そして、私は妻のアシスタントとして、妻の書く動画を撮影、編集、YouTubeに投稿している。
「コイツ、パクっとるやんけーーー!」
私がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいたら妻の声が聞こえた。
なんか怒っている……関わりたくないなぁ。
「これ、見てみ」と言って妻はスマホを私に見せた。
あるYouTubeの書道動画だ。その動画にはこう書いてあった。
“凸(デコ)”
我が家の書道動画として“凸(デコ)”と“凹(ボコ)”をアップロードしたのは3日前のことだ。
“凸(デコ)”と“凹(ボコ)”は外国人に人気がある字だとサイトに書いてあったからYouTubeに載せた。
そして、妻がライバル視している書道チューバー(書道動画をYouTubeに上げている人)が昨日“凸(デコ)”を上げた。
妻はその書道チューバーがうちの動画をパクったと主張しているのだ。
――それ、どっでもよくね?
私はそう思ったものの、妻は自分のアイデア(正しくは私のアイデア)をパクられたことに怒っている。
妻には勝手にライバルだと思っている書道チューバーが何人かいる。
妻がライバル視しているのはチャンネル登録者が100万人を超えるような有名な書道チューバーではない。我が家と同レベルの弱小書道チューバーだ。
妻は書道チューバーとして底辺の戦いを繰り広げている。
妻の話では、弱小書道チューバーは2月に入ってからみんな苦しんでいるらしい。それまで動画の再生回数が数千回だったのに、軒並み200回とか300回に落ち込んでいる。
そして、低迷する弱小書道チューバーたちは迷走を始めた。
我が家と同じ状況だ。弱小書道チューバーはみんな迷走している。
我が家では、写経、外国人の名前、色付き文字、黒画用紙に書く、イラストを入れるなどいろいろ試している。
“凸(デコ)”を書いたのも迷走の一環だ。
そして、我が家の迷走(凸)を見た他の弱小書道チューバーが同じく迷走(凸)する……カオスな状況が起きている。
ちなみに、妻は「他所の書道チューバーがうちの動画をパクった」と言っているが、自分だってパクっている。
写経は他所の書道チューバーが掲載しているのを見て始めた。
絵筆で色付き文字(青、赤、緑など)を書くのも他所の書道チューバーが掲載しているのを見て始めた。
**
それから数日後のこと。
近くの本屋さんで直木賞を取った万城目学さんの本を買おうとしたら、「これも一緒に買っといて」と言って妻が私に筆ペンと画用紙を渡した。
「これなに?」
「金の筆ペン。みんな黒い画用紙に書いてる動画上げてるやろ」
黒い画用紙に金色の筆ペンで字を書く動画をマネするために、妻は金の穂(ぺんてる筆)と画用紙を買いたいらしい。
――自分もパクってるやん……
そう思ったが、私は口には出さない。レジ前で喧嘩すると店員さんに迷惑が掛かるから。
そして、猫の日がやってきた。
妻は金色の筆ペンを使って猫を書いた。猫の日だからバズるんじゃないかと期待して……
猫動画を上げているユーチューバーはバズっていたらしい。が、我が家の上げた「猫」の書道動画の再生回数はイマイチな結果に。
ちなみに、我が家の猫はこんな感じだった。
猫のイラストは要らなかったかもしれない。
我が家の迷走はまだまだ続くのであった。
<つづく>
「にゃん(2月)にゃんにゃん(22日)」だから猫の日なんですね。
しかし、今年の2月22日はいつもと違う「猫の日」になった。
それは……日経平均株価の終値が3万9,098円となり史上最高値を更新!
米国株式も好調だ。エヌビディアの売上高は前期比2.3倍となり半導体売上高世界一となった。エヌビディアの株価は爆上げ中。うちの書道動画とは大違いだ。
世界の株価が最高値を更新しているなかで、株価が上昇している企業の中には意外な企業が多く含まれている。
過去34年間における株価上昇率の第1位は1997年に上場(店頭登録)したゼンショーHD(7550)だった。1997年末の株価と比較して236倍になった。
ゼンショーHDは皆さんがご存じの牛丼チェーン「すき家」の運営会社だ。
ITやバイオなどの株価倍率が高い業種ではない。庶民の生活に密着した飲食チェーンなのに株価上昇率第1位になった。
ゼンショーは1982年創業だからバブル期にも事業を展開している。しかし、「すき家」の知名度が一気に広がったのがバブル崩壊後だ。低価格戦略を採用したデフレ銘柄の代表的な銘柄といえる。
私は就職氷河期時代だ。
諸先輩方がバブル期にやらかした後始末をしてきた世代としては(言い過ぎかもしれませんね。すいません)、ゼンショーはデフレ下を共に戦ってきた戦友のような存在なのだ。
私たち世代が「30年間やってきたことは間違っていなかった」と肯定されたような気がする。だから、この場を借りて言っておこうと思う。
――おめでとう、ゼンショー!
デフレを戦ってきた戦友として、私はそう思う。
もちろん、ゼンショーは私のことは知らないだろう。私が勝手にゼンショーを友人だと思っているだけだ。
それに、友達とか言っておきながら「すき家」に5年以上行っていない。
たまには「すき家」に行ってみるか……
**
さて、YouTubeに話を移そう。
私の妻は書道動画をYouTubeに投稿している自称ユーチューバーだ。そして、私は妻のアシスタントとして、妻の書く動画を撮影、編集、YouTubeに投稿している。
「コイツ、パクっとるやんけーーー!」
私がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいたら妻の声が聞こえた。
なんか怒っている……関わりたくないなぁ。
「これ、見てみ」と言って妻はスマホを私に見せた。
あるYouTubeの書道動画だ。その動画にはこう書いてあった。
“凸(デコ)”
我が家の書道動画として“凸(デコ)”と“凹(ボコ)”をアップロードしたのは3日前のことだ。
“凸(デコ)”と“凹(ボコ)”は外国人に人気がある字だとサイトに書いてあったからYouTubeに載せた。
そして、妻がライバル視している書道チューバー(書道動画をYouTubeに上げている人)が昨日“凸(デコ)”を上げた。
妻はその書道チューバーがうちの動画をパクったと主張しているのだ。
――それ、どっでもよくね?
私はそう思ったものの、妻は自分のアイデア(正しくは私のアイデア)をパクられたことに怒っている。
妻には勝手にライバルだと思っている書道チューバーが何人かいる。
妻がライバル視しているのはチャンネル登録者が100万人を超えるような有名な書道チューバーではない。我が家と同レベルの弱小書道チューバーだ。
妻は書道チューバーとして底辺の戦いを繰り広げている。
妻の話では、弱小書道チューバーは2月に入ってからみんな苦しんでいるらしい。それまで動画の再生回数が数千回だったのに、軒並み200回とか300回に落ち込んでいる。
そして、低迷する弱小書道チューバーたちは迷走を始めた。
我が家と同じ状況だ。弱小書道チューバーはみんな迷走している。
我が家では、写経、外国人の名前、色付き文字、黒画用紙に書く、イラストを入れるなどいろいろ試している。
“凸(デコ)”を書いたのも迷走の一環だ。
そして、我が家の迷走(凸)を見た他の弱小書道チューバーが同じく迷走(凸)する……カオスな状況が起きている。
ちなみに、妻は「他所の書道チューバーがうちの動画をパクった」と言っているが、自分だってパクっている。
写経は他所の書道チューバーが掲載しているのを見て始めた。
絵筆で色付き文字(青、赤、緑など)を書くのも他所の書道チューバーが掲載しているのを見て始めた。
**
それから数日後のこと。
近くの本屋さんで直木賞を取った万城目学さんの本を買おうとしたら、「これも一緒に買っといて」と言って妻が私に筆ペンと画用紙を渡した。
「これなに?」
「金の筆ペン。みんな黒い画用紙に書いてる動画上げてるやろ」
黒い画用紙に金色の筆ペンで字を書く動画をマネするために、妻は金の穂(ぺんてる筆)と画用紙を買いたいらしい。
――自分もパクってるやん……
そう思ったが、私は口には出さない。レジ前で喧嘩すると店員さんに迷惑が掛かるから。
そして、猫の日がやってきた。
妻は金色の筆ペンを使って猫を書いた。猫の日だからバズるんじゃないかと期待して……
猫動画を上げているユーチューバーはバズっていたらしい。が、我が家の上げた「猫」の書道動画の再生回数はイマイチな結果に。
ちなみに、我が家の猫はこんな感じだった。
猫のイラストは要らなかったかもしれない。
我が家の迷走はまだまだ続くのであった。
<つづく>