第6話 被っとるやんけーーー!

文字数 1,778文字

「着ていく服がなーーい!」

今日も我が家で妻が叫んでいる。ちなみに、今回もYouTubeの話ではない。

昔の部下が結婚したらしく、先日連絡があった。いま彼は北の大地にいる。
東京に来るから、彼の奥さんと一緒にご飯を食べに行くことになった。

場所は新丸ビル。東京駅の真ん前だ。

丸の内に行くのは久しぶりだ。
私の会社はその辺りにあるのだが、最近はほとんど会社に行かない。
だから、「あっ、あのカレー屋さんなくなってる……」とか毎回思う。軽い浦島太郎状態だ。

妻が丸の内にいくのは私よりも久しぶりだ。だから、普段着ではない服装にしないといけないのではないかと思っているようだ。仕事と勘違いしているような気がする。
余計なお世話だろうな……と思いつつも、私は妻にアドバイスする。

「フレンチじゃないから、普段着でいいと思うでーー」
「えー? あんたはどんな格好で行くん?」
「うーん。Tシャツ、カーゴパンツ。靴はスニーカーやな」
「あっそう。私だけ気合い入れてもあかんな……カジュアルにするか」

妻は意外にも分かってくれたようだ。

ただ、妻にはどうしても許せないコーディネートがある。
それは、私とのペアルック……

妻は私に確認する。

「何色のTシャツ?」
「白やな」
「じゃあ、私は黒にするか」

私とのペアルックが許せない妻は、私と逆の色を選択した。

「パンツは?」
「黒いキレイめのやつ」
「ああ、白やな」

これで妻と私は上下が逆の配色になった。

時間が迫ってきたので私と妻は外出することにした。
玄関で私は宣言していた通りのスニーカーを履いた。

ここまでは順調に外出できると思っていた。でも、玄関で問題が発生したようだ。

「おいーーー! 白のスタンスミス、被っとるやんけーーー!」

妻は私が白のスタンスミス(adidas)であることを非難している。

白のスタンスミス被りが許せない妻は、私に変更を要求してきた。

「あんたは……こっちのニューバランスにしたらいいやん?」
「えー? パンツが黒やからスニーカーは白がいいわ。あんたが黒いスニーカーにしたら?」
「えーーー?」
「ほら、そこにクラークスの黒いスニーカーあるやん。それでいいやん?」
「これ、スニーカーやのに足痛くなるねん」
「あー、だから最近履いてないんやー」
「そやな」
「じゃあ、こっちのは?」

その後も口論は続くものの両者譲らず……スニーカーはペアルックになった。

***

大手町までの電車移動中、私は妻に事前情報を入れておくことにした。
妻は昔私の会社にいた。だから、今から会う彼のことを当然知っている。もっと言うと、妻は彼の元上司でもある。

だから、彼の奥さんの気分を害しないよう、慎重に事を運ぶ必要があると私は考えた。
妻が余計なことを言わないように……

「昔、長い間付き合ってた彼女いたやん?」
「ああ、お世話になってた彼女やろ?」
「そうそう。あれな、別れたらしい」
「じゃあ、今から会うのは別の人?」
「そうやで。だから、前の彼女のことを根掘り葉掘り聞いたらあかん!」
「はー、そうか。それは禁句やな……」

「そういえば〇〇さんは今何してるん?」
「北の大地で雇われ社長してたと思う」
「マジで? 何の会社?」
「〇〇の子会社やから、食品関係やろなー」
「カニとか送ってくれるかな?」
「どうやろな? カニ扱ってるかは知らん。っていうか、買ったれや!」
「今日の食事代出すから、お歳暮にカニ送れって言っとくか……」

私の妻は意地汚い。妻は手ぶらの私が封筒を持っているのを発見した。

「その封筒、お祝い?」
「そやで、いちおう渡そうかと思って……」
「いくら入れた?」

妻は私がお祝いにいくら包んだかを聞きたいようだ。なんて意地汚い……

お祝いにいくら包むかは関係性による。『〇円が正解!』とならないところが難しいところだ。私の年代、ポジションだと5万~10万くらいが相場だろうか? 根拠はないが、何となくそう思う。

私が返答しないのにイライラした妻は、ボソッと言った。
「1万で十分やな」

さすがにお祝いに1万円を入れるのは気が引ける。
かといって、10万円包んだのを知ったら、妻はネチネチと文句を言うのだろう。

私は大手町から新丸ビルまでの道中、妻に気付かれないようにそっと封筒から5万円を抜いた。

私はレストランに着いた後、申し訳ない気分で彼に封筒を渡した。
こう思いながら。

――恨むなら妻を恨んでほしい……

<続く>
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