第10話 あかん、代わりに見といて……

文字数 2,655文字

「あかん、代わりに見といて……」

妻が私に苦し気な表情で頼んできた。私に何かを頼むなんて珍しいことだ。

この時、妻と私は代々木体育館(国立代々木競技場第一体育館)にいた。
私たちの目の前ではバレーボール日本女子代表がブラジル代表と戦っている。
この試合は接戦だった。

まず、第1セット~第4セットの結果はこんな感じだった。

第1セット:日本21―ブラジル25
第2セット:日本25―ブラジル22
第3セット:日本25―ブラジル27
第4セット:日本25―ブラジル15

日本代表は、負け・勝ち・負け・勝ち、ときている。第5セットは順当なら『負け』かもしれない。
いま第5セット(15点先取したら勝利)だが、ブラジルが10点とった辺りから、妻が顔をコートから背け始めた。

緊張するらしい……

妻と私は前の試合(トルコ対ベルギー戦)から見ていた。トルコ対ベルギー戦も面白かった。

特に目立つのがメリッサ・バルガス。世界ランク1位のトルコのエース・アタッカーだ(元キューバ代表)。ボウズ頭にタトゥーがいっぱい入っているから、デニス・ロッドマンを彷彿させる外見だ。
ファンの皆さんには申し訳ないが、私は彼女のことを「丸刈り」と呼んでいる。
ついでに言うと、トルコ代表には私が「角刈り」と呼んでいる選手もいる。

私は観戦が面白ければ、日本代表が勝っても負けても構わない派だ。
一方、妻は日本代表に勝ってほしい派。

妻はマッチポイント目前の攻防を直視できないでいる。

「なあ、どっちに入った?」
「ブラジルやなー」

「どっち?」
「日本やなー」

「どっち?」
「ブラジル。マッチポイントになった」
「えぇ? もう?」
「そやなー。最後くらい見たら?」

そう言っている間に、日本代表はフルセット激闘の末ブラジル代表に惜敗した。
なかなか面白い試合だったと思う。
妻は最後見ていなかったが……

こういう状況(代わりに見といて)は他の家でもありそうな気がする。


***

ちなみに、皆さんはバレーボールの試合を観戦したことがあるだろうか?
妻と私は今回初めてバレーボールを会場で観戦した。

チケットをどうやって取るのか? 座席はあるのか? 何時に会場に行けばいいのか?
などなど謎だらけだった。

きっかけは先週、テレビでバレーボール日本女子代表の試合を見ていた時だった。
妻がボソッと言った。

「これ、どこでやってるん?」
「日本やなー。代々木って書いてあるで」
「すぐ近くやん。チケットまだ売ってるかな?」

妻は私に言ったまま、こっちを見ている。
妻は自分でチケットを取ろうとは思っていない。
私は「チケット取れやー」という妻からのプレッシャーを感じた。

チケットぴあで販売していたから、座席を確認すると「スタンド自由(3,000円)」だけ残っていた。私は妻にチケットを買うか確認する。

「女性代表のブラジル戦のスタンド自由やったら売ってるで。他の試合は売り切れ。男子も完売やな」
「そっかー、男子は人気やもんな。石川、西田とか人気選手いるし」
「日曜日やし、行ってみる?」
「そうやな」

私は「スタンド自由(3,000円)」のチケットを購入したのだが、幾つかの疑問が生じた。

「スタンド自由って、席あるんかな?」

私は妻にチケットサイトの座席図を見せた。
妻は座席図とテレビ画面の座席を見比べている。

「あの上の方やな。あの人たち座ってそうな気がする」
「まぁ、あの角度で立ってたら危ないしなー。じゃあ、座席はあるということで」

※スタンド自由でも座席はあります。ただ、自由席なので座席は早い者勝ちです。

立ち見ではないことに安心した私だったが、もう一つ気になったことがあった。

「試合開始時間が午前10時って書いてある……」

妻は少し驚いて私に確認した。

「日本戦始まるのは19時やろ?」
「そうやけど、日本戦の前に3試合あるねん」
「10時から全部見れるんやな」
「みたいやな」
「早く行って席確保しなあかんかな?」

妻は朝から代々木体育館に行きそうな勢いだ。

「朝から? 昼ご飯どうするん?」
「何か買っていくか、交代で原宿に食べに行ったらいいやん」
「えぇ? それやったら体育館に10時間以上いなあかん。1試合前からでいいやん」

朝10時から会場に行こうとする妻と、10時間以上も体育館に居たくない私の攻防は続き、1試合前から見に行くことになった。

※1試合前(16時開始)に行きましたが、真ん中以外は空いていました。

これで終わったと思っていた私に、妻は日本代表の試合を見ながら言った。

「あの応援グッズ、会場に売ってるやろか?」
「応援グッズ?」
「あー、あの金色の棒」

テレビに映った観客は、どいつもこいつも金色の棒みたいなのを2本もって応援していた。
金色の棒を持っていないと応援してはいけない雰囲気だ。

「あの棒、欲しいー。買ってくれー、買ってくれー、買ってくれー」

妻はこういう時、面倒くさい。

会場で応援する時に、金色の棒を持っていれば盛り上がるだろう。
でも、金色の棒はバレーボールの応援以外では利用価値はない。
それに、家に置いておくと妻が金色の棒で私を叩くだろう……

金色の棒を買いたくない私は妻に提案する。

「キッチンペーパーの芯に金の色紙、貼ったろか?」
「いややー。あの金色の棒がいいー」

妻は私の提案を却下した。でも、会場で「2,000円です!」とか言われると困る。
しかたないから、私は交渉することにした。

「安かったらな」
「安いって幾らまで?」
「500円やな。500円超えたら買わへん。それでええ?」

妻は金色の棒が500円を超える可能性を考えている。だが、500円はさすがに安いと思ったようだ。

「1,000円!」
妻は値段交渉に入った。

「600円!」
「900円!」
「700円!」
「800円!」

「分かった……800円以下やったら買う」

こうして、我が家のブラジル戦観戦の準備が整った。
いつもそうだが、こういうイベントは家を出るまでに時間が掛かかる。

皆さんの家も同じではないだろうか?

***

ちなみに、金色の棒は代々木体育館に行ったらタダで配っていた。
現物は棒ではなく、空気を入れて膨らませる風船のようなもの。

参考に写真を載せておきます。



※膨らませる前(上)、膨らませた後(下)


さて、今回の復習です。

・バレーボールの「スタンド自由」には席がある。ただ、自由席なので早い者勝ち。
・自由席でも、試合開始1~2時間前に行けば真ん中以外の席は確保できる。
・金色の棒(風船)は買う必要はない。会場で貰える。

これからバレーボールの観戦に行こうと思っている人は参考にして下さい。

<続く>

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