第33話 お触りし放題やーーー!

文字数 1,457文字

「そっち行ったらあかん!」

妻が叫んでいる。

必死に引き戻そうと手を引っ張るものの、ムスメは妻に反抗するかのように逆方向に進もうとする。

ムスメはなかなか力が強い。妻が引っ張ってもビクともしない。
妻も一歩も引かない。

妻とムスメはお互いに行きたい方向が違う。
お互いの行きたい方向を目指して、引っ張り合いになっている。

「そっちはあかんって!」

妻はムスメに大声で言う。
しかし、ムスメは言うことを聞かない。

反抗期なのだろうか?

――頭ごなしに叱ると逆効果になる

以前、反抗期の子供の育て方について何かの本で読んだことがある。
子供が反抗するのは、何か主張をしたいからだ。

子供にはいろんな主張がある。

――スマホが欲しい!

スマホは何歳から持たせるべきなのだろうか?
同級生が持っているのに、うちの子供だけ持ってなかったら可哀そうな気がする。
スマホがなければクラスのLINEグループに入れない。そんな世の中になった。
「なぜスマホが必要なのか」を子供から聞いて、その理由に親が納得すれば買ってあげればいいのかな……


――小遣いを上げろ!

これはどの時代にもあることだ。
子供から「小遣いをどう使うか」を聞いて、親が納得すれば上げればいいのだろう。

反抗期の子供と向き合うのは難しい……


ここまで書いたけれど、全て私の妄想だ。
妻を見ていて、勝手にこう思っていた。


念のためにどういう状況か説明しておこう。
こういうことだ。




妻は羊と散歩している。
羊は草を食べて動かない。
妻は草のないところに誘導しようと引っ張るものの、羊はなかなか言うことを聞かない。

「15分しかないんやから、はよ歩けやーーー!」

妻がキレてきた。

この日、私と妻は伊香保温泉にある「伊香保グリーン牧場」に来ていた。
妻は700円払って15分間羊と散歩している。

結局、ルートの半分くらいで「〇〇さん、時間ですー」とお姉さんに呼ばれ、15分は終了した。

1周できなかったことは悔しいものの、「いっぱい触れたし、まぁええかー」と妻は満足そうだった。

「でも、15分で700円って高くない?」と私が何となく言ったら、妻に睨まれた。

妻は私に何か言い返そうと考えている。

「オジサンがキャバクラでお姉ちゃん触ったら、怒られるやろ?」
「まぁな、お触り禁止やな」
「羊やったら、700円でお触りし放題やーーー!」

とにかく、妻は動物に触りたい。

**

最近、私は旅行に行くときに心掛けていることがある。
それは、動物を触れる場所にいくこと。

私は神社・仏閣などに行くのが好きだ。
「へー、ここで死んだんやー」と見ていると楽しい。

でも、妻は歴史に全く興味がない。
だから、「動物お触り」をセットにする。

これは、私が宮島(広島)に行ったときの妻との会話だ。

「宮島に行こうと思うんやけど」
「へー、何があるん?」
「厳島神社とか」
「興味ないわー」

妻は宮島に興味なさそうである。

「鹿いるで」
「鹿?」
「そう、鹿。宮島には鹿がいっぱいいるねん」
「へー、行こうかな?」

妻は宮島に行くことにした。


次は、盛岡(岩手)に行ったときだ。
ニューヨーク・タイムズの「2023年に行くべき52カ所」に盛岡が選ばれたから、行ってみようと思った。

「盛岡に行こうと思うんやけど」
「何もなさそうなー」
「小岩井農場で乳しぼりできるで」
「へー、行こうかな?」

妻は盛岡に行くことにした。

動物のお触りがないと、妻は私と旅行に行かない。
我が家では私が単独で旅行に行くことを「ソロ旅行」と呼んでいる。

来週は松本城を見に行く予定だ。
妻は城に興味がない。

きっと、松本城はソロ旅行だ。

<つづく>
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み