第43話 こんな靴で歩けるかーーーー!

文字数 1,952文字

「こんな靴で歩けるかーーーー!」

妻が叫んでいる。

聞きなれた愚痴ではあるが、いつもとロケーションが違う。
この日、私と妻は富士登山に来ていた。

先に報告しておくと、無事に登頂しました(パチパチパチパチ)。

さて、うちの妻は山登りが大嫌いだ。
そんな妻でも、一生に一度は富士山に登ってみたい、そう思ったようだ。

どうせ次に登山に行くこともないだろう。
妻はそう思って安いトレッキングシューズをアマゾンで買った。ミドルカットのトレッキングシューズだ。
安いと言っても、私のワークマンの1,900円(ローカット)が何個か買える。
トレッキングポール(ストック)は次に使う機会があるか分からないから、今回は持っていかないことにした。

こうして、富士登山が始まった。
コースは最も簡単な吉田ルート、入り口で2,000円払ってリストバンドを買って入場する。
7合目までは順調だった。足が痛くなることなく、妻もご機嫌だった。

せっかくだから、ご機嫌だったときの妻を載せておこう。
「今から登るでー」と余裕を見せて立っている。
この頃は愚痴がなくて良かった。



※目の辺りを加工しています。

しかし、8合目を過ぎた辺りから状況が一転する。

「この靴、足痛いわー」
「トレッキングポール、なんで買わんかった?」
「山小屋、まだーー?」

愚痴りだした。
この日、私は8合目の頂上から2番目に近い「富士山ホテル」という山小屋を予約していた。
なるべく頂上に近い山小屋に泊まれば2日目が楽になる、そう考えたからだ。

「足痛いわー」
「トレッキングポール、あったら楽やのに……」
「景色がずっと同じで飽きるわー」

富士山の8合目からは景色が変わらない。ずっと、こんな道を歩くことになる。
5分に一度のペースで休憩を入れながら、私は妻と山小屋を目指して上っていく。



「もう、ここでいいんちゃう?」

妻は前に見えた山小屋を指した。
予約していない山小屋には泊まれない。私が予約した山小屋はあと2つ先だ。
そろそろ、限界かもしれない。

「荷物持ったろか?」

私は少しでも歩かせるため、妻のリュックを背負った。
こんな感じだ。手ぶらになった妻は「ちょっと楽になったわー」と歩き始めた。


※目の辺りを加工しています。

5分に1度の休憩のせいで進みが遅い。ぜんぜん山小屋に着かない。

「膝痛いわー」
「暗くなってきたやん!」
「山小屋にいつ着くねん!」

愚痴る妻をのらりくらりとかわし、「あれとちゃうかな?」と一番近い山小屋を指す私。
実はもう一つ先が予約した山小屋なのだが、とにかくモチベーションを上げさせないといけない。

「こんな靴で歩けるかーーーー!」

ついにキレた。こうなったら、何も言うことを聞かない。

5分に1度の休憩を3分に1度にし、なんとか予約した山小屋に辿り着いた。
5合目をスタートして8時間が過ぎていた。もう、ヘトヘトである。
しかし、ここからも妻の愚痴は続く。

食事はインスタントのカレーが出てきた。





「サラダないやん」

山小屋に新鮮野菜を期待するのは無理な話である。

「歯磨きするところがない!」

富士山では水が貴重である。トイレに入るのは有料だし、シャワーもない。

「麓から水、引けやーーー!」

休火山に水道を通せと要求する妻。面倒なので私は「そやな」と言った。

そこからも妻の愚痴は続く。

「音がうるさくて寝れへん!」

山小屋は密集して人が寝ているから、ゴソゴソ動く音が聞こえてくる。私も気になったけど、これは仕方のないことなのだろう。

「深夜1時に朝ごはん食べるとか、どんなんやねん!」

泊まった山小屋から山頂まで2時間以上掛かる。ご来光を見るためには、深夜2時までに山小屋を出発する必要がある。
逆算すると深夜1時代に朝食を食べる。そもそも、これを朝ごはんと呼ぶのかは不明である。

頂上に着いたら妻が叫んだ。

「二度と来るかーーーー!」

その後も文句を言いながら富士山頂から下った妻。
下りは足に負荷が掛かるから、左の親指と膝が痛いらしい。
妻は後ろ向きで富士山を下って行った。
砂利道を下る姿は、MJのムーンウォークを彷彿させる。

「ムーンウォークみたいでカッコイイやん!」

煽てる私であるが、その手には乗らない妻。

「この靴、痛いねん。下りたら直ぐに捨てたるからなーー!」
「トレッキングポールがないから、こんなことなんねん」
「金ケチったら、死ぬぞー! この貧乏人がーーー!」

ノロノロ下山したので、5合目に着くのに5時間掛かった。
これが、妻と一緒に富士登山した記録だ。

【結論】
もし、妻と富士登山に行く機会があれば、次の2点を注意した方がいいだろう。

・靴は高くなくてもいい。でも、足に合った靴を買うべき。
・トレッキングポールはあった方がいい。

YouTubeの話は一切していないけど、これが自称ユーチューバーのアシスタントからの助言だ。

<続く>

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