終章 (2) お気に入りのおもちゃ

文字数 1,193文字

 俺は一人闇雲に自転車を走らせた。何もかもがどうでもよくなった。単純バカの本山、いつでも訳知り顔の河原田、なんであんな奴らと旅行なんかしてしまったのだろう。あんな甘ちゃん野郎共とわかり合える筈がないじゃないか。あんな雑魚共と友達ごっこして、時間の無駄だった。もうあんな奴らと関わるのはやめよう。学校に行っても誰とも口を利かずに過ごそう。くだらない奴らとくだらない話をするくらいなら、一人で本でも読んでた方がマシだ。マジむかつく。たかが二泊三日の旅で、成長した気になってんじゃねえぞ。一生妄想してシコってろ。あー、あんな奴らと旅行なんてするんじゃなかった。あんなつまらん奴らと旅しても時間の無駄だった。あいつら二人で示し合わせたみたいに行動しやがってなんなんだよ。何が「缶ちゃんとゴミ箱に入れてけよ」だよ。調子に乗ってんじゃねえぞ。てめえみたいな奴は、中途半端な頭でっかちの河原田と仲良くしてりゃいいんだよ。マジでこんな旅行しなきゃよかった。あんな奴らと一緒にいても全然楽しくなかったし。絶対あんな雑魚共とはもう関わらない。あんな奴ら……
もうしばらくずっと同じことしか思いついていないことに気が付いた途端、フーッとため息が出た。全部俺が悪い。本山も河原田も良い奴だ。俺が悪い。この旅行も楽しかった。すげえ楽しかった。

 子供の頃、俺はお気に入りのおもちゃを最後は自分で壊していたと、婆ちゃんが今年の正月に話していたのを思い出した。当時の気持ちは思い出せないが、誰かに壊されるのが怖くて、ある日突然動かなくなってしまうのが怖くて、その恐怖に怯えるくらいならと自分で壊してしまっていたのだろう。今日の俺も全く同じだった。楽しい時間がいつ終わってしまうのか、怖くなって自分で壊してしまったのだ。少しも成長していないのは俺だ。
 情けなくなってようやく我に返った俺は当たりを見渡した。周りには民家は少なく、畑が左右に多く見える。ここがどこだかは全く分からない。少し先にローソンの看板が見える。そう言えば朝から何も食ってない。ローソンで何か食い物を買ってついでに道を聞くことにした。
 ローソンでは、一通り見たが結局からあげ君を買った。昨日三人で食べたからあげ君が美味かったのを思い出したからだ。レジでお金を払って学生アルバイトっぽい無精ひげの店員に話しかけた。
「すみません。自転車なんですけど、浜松に行くにはどう行ったらいいですか?」
店員は親切に店の前まで出てくれて、詳しく国道がどうとか県道がどうとか教えてくれたが、イマイチ覚える気にならなかったので、「ここから南東ですよね?」と聞いた。「方角的には南東です」店員が答えてくれたので、俺は「どうも」と頭を下げて自転車に乗った。

 生まれて初めて方向を東西南北で言った。自転車をこぎながら食べたからあげ君は今までに食べたどのからあげ君よりも味気なかった。
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