終章 (4) 祈り

文字数 523文字

 やがて雨が止んだ。もう雲の間から青空が顔を出している。手の甲で雨と涙をぬぐった。
 道徳の授業で、上半身だけしかないアメリカ人の少年のことを学んだ時、ほとんどのクラスメートは『こんなに不自由な身体なのに一生懸命生きていてすごい』『可哀想だけど頑張っていて勇気をもらった』というような感想を発表していた。でも俺は違うと思った。悲しみや喜びは人によって捉え方が違うから、こいつが可哀想かどうかはこいつが決めることで、俺たちが決めることじゃないと心の中で思った。

 そうだ、あの時『俺が不幸かどうかは俺次第だ』と思ったじゃないか。こんなこともあったけど、今は幸せですって言える未来だってある筈だ。まだこれからじゃないか。まだ何も始まっちゃあいない。

 これまでだってずっと諦めてはいなかった。だからこそ、一昨日恋路が浜で【願いが叶う鍵】を柵にかけて祈ったじゃないか。親父と母さんがまた仲良くなれますようにって。

 家に戻ったら、オーストラリアの高校に行くためにはどうすれば良いか調べよう。英語の勉強も始めよう。そして、次に親父が俺の心に近づこうとしてきたら、その時は受け入れよう。
真っ暗な闇に一筋の光が差し込んだ気がした。俺は未来に向けてペダルを漕ぎ始めた。
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