第3章 (2) 毒を以て毒を制す

文字数 1,266文字

 俺たちは県道52号線を北東に進んだ。内陸側に入ったので海は見えず、所々民家があるエリアを抜けると、両側に畑がたくさんある道が続いて、その後は緩い登りが長く続き、気が付くと少し標高が高くなっていた。低めの山を横断しているようだ。全身筋肉痛の俺は、この時既に体中が悲鳴をあげていたが、後半は緩やかな下り坂になったのでホッとした。
 しかしそれも束の間で、フラットな国道247号線に入ると、ペダルを漕ぐたびに激痛が走り、少し進んだ所にあった薬局で湿布を買って、両ふくらはぎと両足の腿の裏に貼ってテープで固定した。俺の身体は大変なことになっているのに、モトとハユは薬局では湿布には目もくれず、「キャンプ場でやろうぜ」と花火セットを買って喜んでいる。
 それからも、俺にとって過酷なサイクリングは続いた。俺の遅いペースにモトたちが合わせてくれて、碧南海浜水族館の前を通り過ぎた時には午前十時半を回っていた。俺は何とか痛みに耐えてペダルを漕ぐのが精いっぱいで、口を利く余裕が無くなっていった。
 水族館から2.5キロほど国道247号線を進むと大きな橋になり、その辺りから歩道がかなり広くなったので、ハユとモトが並走してきた。
「もし今日、あのユースホステルに残ってたら、どうなってたかな?」ハユが切り出した。
「あの子たちと海に行って、夜は海辺でバーベキューとかしてさ、暗くなってきて、俺とクロダイ、河原田とマダイ、本山とマゴチが何となくカップル的な雰囲気になってきてさ。そんで、河原田が『ちょっと歩かない?』とか言ってマダイと抜け駆けすんだよ。うひょー、熱いね。二人で歩いている間に河原田が勇気を出して手を握ってみるんだけど、向こうも握り返してきてさ。そのあと二人は営業が終わって空っぽの海の家の中に潜入するんだ。探検だとか言ってな。そして畳の広間の一番奥の仕切りで外から見えないようになっている所でキスをする」
「何言ってんのハユー」俺は久しぶりに口を開いた。
「何ってお前の濡れ場実況だよ」確信犯的な笑みを浮かべてハユが俺を見た。確かに、もしそうなれたら最高だ。マダイさん(仮名)の顔とおっぱいが頭に浮かんだ。
「河原田エロいな」俺の表情を読み取ったモトが共犯めいた笑みを浮かべた。
「これは俺じゃなくてハユが勝手に作った創作だし……ていうかハユの妄想力が凄い」
「確かに。本橋、お前エロ小説家になれるよ」
「金に困ったらそうすっかな」
 あれ? そう言えば筋肉痛の痛みが無くなっている。
「ハユ、なんでかわからないけどエロ話を聞いてたら筋肉痛が楽になった」
「河原田君。蛇の道は蛇だ。私は最初からそのつもりだったのだよ」ハユはニヤニヤしながら何度も頷いた。ハユと同類にはされたくないんだけどな。
 でも、こういうのも【毒を以て毒を制す】って言うのかな、などとバカなことを考えつつ、頭の中ではハユの描写した情景がリフレインしている。
 それにしても、あれだけの描写ができるということは、ハユは太田さんとも色々しているに違いない。そう考えていると、また股間が痛くなった。
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