ニュータイプ
文字数 2,787文字
プラモデルに性能のちがいなんてあるのか。あんパンをかじりながら聞いた。
指揮官専用機だからね。出力系統がまるでちがう。あと量産型には
だめだ。なにをいってるのかさっぱりだ。
例のこづかい稼ぎ。おれは今日最後の客=
新井はとなりのクラス=三組のチビで、いつも学者みたいなメガネをかけている。そいつを外したときの顔が想像できないほどのガリ勉顔だが、頭がいいという話は聞いたことがない。
家が車屋をやってるせいか、新井はスポーツカーやバイクなんかにも詳しく、そのへんに関係するものもよく欲しがった。今日もこれのほかにチョロQ三個をDrスランプの最新巻とセットで渡している。しめて七百円のお買いあげだ。
半年前にこの稼ぎをはじめてから今日まで、新井が注文をしてこなかったことは一度もない。いってみればお得意さんだ。使ってきた金も断トツで一番だろう。おれの学費の半分はこいつが払ってきたようなもんだ。
最初で最後のサービス。たかだか百数十円のそれで申しわけないが、これまでの感謝の代わりだ。
『
六年ものとは思えないきれいなランドセルから取りだされてきたのは雑誌。表紙にはガンダムの絵が描かれている。そいつを細長い指でパラパラとめくりはじめる新井。連続したページの起こす風がおれの鼻っ面に新しい紙のにおいを運んできた。
ページとページの間から抜きだされてきたなにか。ペラペラしている。
どこにもガンダムの描かれていない、風景だけのセル画=どこかの海。それか湖。白い灯台の向こうに島だか山だかが見えている。船やかもめのような鳥も描かれていた。パンをかじる顎が思わず止まる。
まるで写真だった。よく見ると半分に少し足りない月が、夕方と夜の両方を混ぜあわせた空へ透き通るようにして浮いている。セルの左下には『たそがれの海』と小さく書きこまれていた。なんだか懐かしい気分におれはなった。
もう一度絵を見た。波とその泡、流れている感じの雲、近くの島、遠くの島々、月の模様。細かいところを見ていけばいくほどよく描けている。ただ――
新井の問いに答えながら、おれはいろいろと思いだしていた。焼けた砂の海岸、防波堤の灯台、沖の灯標、コンビナート、でかいタンカー、貨物列車。そして――ヘドロの浮いた海。
口の奥にあったあんパンを飲みこみながらいった。
歌の歌詞なんかじゃよく聞く言葉。なんとなく寂しい感じの意味だろうと、おれは勝手に思っている。
丸っきりはずれでもないが、正しいともいえない言葉の意味。いや、どっちかといえばはずれか。
最後のこづかい稼ぎが終了する。あとは鍵の確認を松本がしっかりやってくるのを待つだけだ。おれはふたつめのパン――ジャムのそいつに取りかかりながら、海の絵と空気しか入っていないランドセルを肩へかけた。
ぼうっと突っ立ったままおれを見ている新井にいった。
親指以外をグーにした右手で背中のほうを指した。
頷き、三分の一ほどにちぎったあんパンを新井に勧める。
新井に『いらない』といわれたそれを口のなかへ放りこむ。
とてもじゃないが食う気になれなかった今日の給食=プリン以外のそれ。ソフト麺、ケチャップスープ、ハンバーグ、切り干し大根。どれもこれも天然スパゲティーを思わせるものばかり。となりの席の女子が、馬鹿みたいに赤いスープのよそられた器へソフト麺をぶちこんだときに吐きけがきて、皿に乗っかったハンバーグを先割れスプーンでぶっ刺した瞬間に胃が暴れだした。牛乳一本じゃ、さすがに腹がもたない。
窓辺へ移動し、空になったパンの袋をサッシの溝へ押しこんだ。視聴覚室にはなぜかごみ箱が置いてない。新井がおれのことを『変わってる』といった。どこでそんなふうに思うのかを聞く。
そうだなあ……怖いのかそうじゃないのかよくわかんない。いつもケガしてるし、だけどこうやって欲しいもの用意してきてくれるし、でもガンダム知らないからまちがえるし、今日はなんだか気前がいいし、給食の後にすぐパン食べてるし。
まとめるとつまり『ガンダムをよく知らない、傷だらけで
きっと