あの野郎
文字数 1,277文字
写ってるなんてもんじゃない。ボクは息をどう吸って吐けばいいのかわからなくなった。
思わず怒鳴った。怒鳴らずにいられなかった。
押し殺した声でがなられた。そんなことはわかっている。
頭の上から降ってきた文句。黙れ! 人の気も知らないで!――思うように動いてくれない舌と口のせいでちゃんとした言葉にならない声。喉だけを震わし続けた。そうしながら、あり得ない写真を床へ叩きつけた。
この世のどこかに銀 河鉄道があると信じているわりには想像力の足りない沢村。両脇の下へ腕を差しこまれた――いらっときた。
椅子を蹴った。写真を叩き散らした――ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!
背中を叩かれた――怒りがめ ちゃんこになった。セットした覚えのない時間を巾着 のなかから知らせてくるゲームウォッチ。なめている。おちょくっている。どいつもこいつもボクのことを馬鹿にしている。ふざけるな!
沢村の腕を振り解 く――解けない。そのままでたらめに体を動かした。
怒鳴って怒鳴り返された。ゲームウォッチも電子の音で負けじと叫ぶ。どうでもよかった。この計画が、旅が、沢村との仲がどうなろうが知ったことじゃない。ボクの目的は変わった。なんとしてもあいつを殺――
景色がまわる。同時に顔のどこかが熱くなった。
突然切り替わる心のスイッチ――怒りから悲しみへ。黒い景色がぼやけてにじむ。電子の音だけが闇のなかを泳ぎまわっていた。
震える体。軋む心。膝から下の力がいきなりゼロになる。床へ膝を突く前に体を支えられ、それから引きずられた。
頭をしゃきっとさせる。足腰に力をこめる。ボクたちは来たときの何倍ものスピードで闇色の職員室を飛びだした。
――月下、非常識ヲ試ミタ童蒙ハ顎止ムコトナク自我ヲ現世ヲ理ヲ思惟ス。
文 東亰チキン
絵 あおい美潮