第８話　伴　憲護の自宅

　夕方の高円寺。
伴の自宅である。　

玄関前の道路に、黒塗りの大型の公用車（アルファード・フロントウインドーの右サイドにタコの様な衆議院のマーク）が置いてある。
パトロール中のバイクの巡査が、「駐禁の警告シール」を貼ろうと車の周りを一回りする。
が・・・、貼らずに行ってしまう。
巡査が去ったのを見計らって、玄関から心配そうに表に出て来る伴。
玲子（伴 憲護の姉）も出て来て二人で車の周りを一周する。
玲子が、

　「知らないわよ。この辺取り締まり厳しいんだから」
　「この車に駐禁貼るオマワリがいたら会ってみたいよ」
　「駐禁は駐禁じゃない」
　「だって、オヤジは『公安部会の副会長』だぜ」
　「そんなの関係無いわ。邪魔はジャマ！ イヌにオシッコをかけられるわよ」
　「しょうがねえだろう。運転手が消えちまったんだから」
　「運転手が消えた？ 何それ」
　「姉（ネエ）ちゃんに言っても分かんねえよ」
　「だいじょぶ、その会社？ アンタもその内、消されちゃうんじゃない」
　「とにかく明日は絶対に四時に起こしてよ。群馬までこれで行くんだから。あッ、そうだ。姉ちゃん時々この車見に来てよ」
　「冗談じゃないわよ」
　「頼むよ～。この車が無くなったらオレ、本当に消されちゃうんだから」
　「じゃ～、車の中で寝たら」

　翌朝。
各部屋の目覚ましが一斉に鳴り響く。
勝則（姉・玲子の婿養子）が布団から飛び起きる。

　「・・・？・・・夢か。あ〜、怖かった。？・・・何だいこの目覚ましは」

勝則は頭の上の目覚ましを止め、時間を見る。

　「四時？ 誰だよこんな時間に合わせたのは」

　台所が騒がしい。
伴が鏡の前でネクタイを締めている。

　「朝ご飯食べて行きなさいよ」
　「うん」
　「群馬の事務所には何時に着けば良いの」
　「八時半」
　「当分帰って来られないの」
　「うん」

勝則が眠い目を擦りながら台所に来る。

　「憲（ケン）ちゃん、随分早え～なぁ」
　「出張だよ、出張！ 運転手が消えちゃたからよぉ。ッたく・・・」
　「消えた？ 格好良いじゃん。ケンちゃんの仕事って小説みてぇ」
　「ただの営業だよ」

伴は腕時計を見て、

　「あッ、ヤッべー、こんな時間だ」

伴は熱いお茶を一気に飲み込む。

　「アッチ～ッ！ 何でこんなにアッチーんだ」

玲子が、

　「バ～カ」
　「よしッ！ 出撃だ」

伴が玄関で靴を一拭きして、

　「行きますッ！」

元気良く玄関を出て行く伴に玲子が、

　「気をつけてね。いってらっしゃ〜い」

玲子が台所に戻とテーブルの上に、伴の忘れた「ライター」を見つける。

　「あッ、ケン！ ライター！ 忘れもんだよ～」
　「お？ ケンちゃんタバコ始めたの」
　「違うわよ。いいからアンタ、早くこれ持ってって。大切な仕事道具なんだってから」
　「ライターがシゴトドウグ？ 何かケンちゃんの仕事って興味あるなあ」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく