第14話 脇が甘いと謂う事

文字数 1,001文字

 次の『ご挨拶(JA青年部)』に向かう車中。
先生は『JAの作業服』に着替え、ネクタイを直しながら、

 「君は脇が甘いねえ・・・」
 「ハ?」
 「映画か何かの見過ぎじゃないの?」
 「はあ」
 「先が読めんのかね」
 「はあ」
 「いちいち私の指図(サシズ)を受けるな。自分で考えなさい」
 「あの~、先生のおっしゃってる言葉の意味が分かりません」
 「要領が悪いと言ってるんだ。バカ者」
 「え? ア、ハイ! すいません・・・」
 「で、次の会場で私は何を喋れば良いの?」
 「は? いや、それは~・・・」
 「それは何だ!」
 「ハイ! それは、JAの青年部会ですから・・・」
 「ですから?」
 「希望の持てるような・・・補助金なんか」
 「ホジヨキン? 君はそれで私の秘書を務めると云うのか! バカ者が・・・」
 「ハイッ! すいません」

伴は落ち着いて運転出来ない。
すると先生が。

 「そこを右に曲がりなさい。近道だ」
 「ハイ」

伴はハンドルを右に切り路地へ。

 「あ、先生! 一通・・・」
 「大丈夫だ。行け」
 「エッ! いや、違反・・・」
 「違反? 君は度胸が無いねえ」
 「いや、そんな・・・」
 「バカ者ッ! また私に運転させたいのか」
 「ハイ! すいません」

目前に勤労会館が見える。

 「あ、本当だ。随分、近いですねえ」

先生が会館から出て来る。
伴は急いで車を玄関に着け、後部ドアーの開閉ボタンを押す。
先生は座席に飛び込む。

 「早くしろ!」
 「ハイ!」

先生が車内で礼服に着替えながら『一言』。

 「君はあそこで、お茶を飲む必要はないんだよ」
 「ア、はい。申し訳ありません」
 「君が大臣じゃないんだから・・・」
 「すいません」
 「それから、あそこで名刺交換してたでしょう」
 「ハ?」
 「アレは共産党の秘書だぞ」
 「エッ! そうだったんですか?」
 「何だ、その答え方は! バカ者が」
 「ア、失礼しました!」
 「・・・もっとスピードが出ないの。間に合わないぞ」
 「ハイッ!」

猛スピードで走り抜ける漆黒の公用車(アルファード)。

関越道を超快調に飛ばす伴。
先生は新聞を顔に載せて眠っている。
突然、道路正面頭上の速度探知器(オービス)が光る。

 「あ、光ったッ!」

急にスピードを落とす車。
先生が顔にのせた新聞をずらし片眼を開ける。

 「どうした?」
 「光りました」
 「ほ~らね。だから君は脇が甘いと言うんだ」
                    つづく
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