第15話 人間が変わった。
文字数 1,819文字
お昼。
中尾博康事務所(地元)応接室である。
博子が応接室のソファーに座り、週刊誌を広げて仕出弁当を食べている。
先生が軽快にビルの階段を上がって行く。
伴は『汗を拭き』ながら先生の後を追う。
先生が自分でドアノブを回し応接室のドアーを開ける。
伴が追いつき、
「あッ、すいません」
「ナニ?」
「いえ、ドアー」
「ドアー?」
先生は首を傾(カシ)げ怪訝な顔で伴を見る。
博子が先生を見て、
「おかえんなさい!」
先生は博子の弁当を見て、
「おッ! 焼き肉弁当か。旨そうだな~あ」
「お父さんのも有るわよ」
伴は疲れ果て、先生の後ろで呆然と立っている。
先生は生気(セイキ)のない伴を見て、
「? どうした。腹は減ってないのか」
「ハイ! 減りました」
「早くメシを喰いなさい」
「ハイ! 頂きます」
伴はロボットの様に身体(カラダ)を右に廻し、隣の事務所に。
事務所ではヨネと敏子が打ち合わせ机に座って仕出し弁当を食べている。
机の上にはヨネの自家製の沢庵(タクワン)が置いてある。
敏子が事務所に戻って来た伴に気付き、
「あら、お疲れ様。無事だったようね」
伴は直立不動の姿勢で、
「ハイ! 勉強になります」
ヨネが伴の態度を見て、
「だいぶ、秘書らしく成ったじゃない。後は病気に成らない事だね」
敏子が席を立って、アルミの急須にポットから湯を入れる。
敏子は伴を見て、
「早くお昼食べなさい」
「ハイ! 頂きます」
伴は空いた席に座る。
敏子は急須の茶を湯呑みに注ぎ、弁当と茶を伴の前に持って来る。
「焼き肉で良い?」
「何でも構いません」
敏子が伴の座った机に弁当と茶を置く。
弁当の蓋を開け、むさぼり喰う伴。
敏子が、
「・・・うるさいでしょう、先生」
「いえ、勉強に成ります」
ヨネが、
「タクワンも食べな」
「ハイ。頂きます」
敏子が、
「・・・ベンキヨウ? 勉強なんかに成るの? 森さん、気が狂いそうだって言ってたわよ」
「え、あの森さんがですか? あの人、明大のアメフト部の副キャプテンだったんですよ」
「そんなの関係無いわよ。森さんの前の人なんか日大の相撲部だったんだから」
ヨネが、
「三週間だっけ? あの人・・・。博康と一緒に動いて胃潰瘍で入院したんだ。可哀想にね~」
伴は二人の話など上(ウワ)の空で弁当を食べている。
敏子が
「アンタ、点数は沢山(タクサン)残ってるわよね」
伴は飯を頬張りながら。
「テンスウ?」
「免許の点数!」
「あ〜あ、ゴールドです」
「森さんはよくそこの警察署に通ってたわよ」
急に伴が飯を喉に詰まらせる。
「ゲホッ、ゲホッ」
咽せる伴を見てヨネが、
「大丈夫? お茶を飲みなさい」
伴が例によって一気に熱い茶を飲む。
「アッチーッ!」
それを見てヨネが、
「アンタ、本当にだいじょぶ?」
「ハイ、勉強になります」
敏子が伴の湯呑みに茶を注ぐ。
ヨネは呆れた顔で伴を見て、話しを続ける。
「・・・でもね、どうせ罰金はウチが持つんだから。それに文子は安全協会の副会長だしね」
伴は箸が止まり、二人の顔を凝視している。
すると博子が事務所のドアーを開けて中を覗く。
「あの~、先生がバンケンちゃんの事、呼んでますよ」
伴は起立して大声で、
「ハイッ! 今、行きます」
伴がまた熱いお茶を一気に飲み干す。
「アッチーッ! 何でこんなにアッチ~んだ!」
伴のスマホが鳴る。
スマホをポケットから取り出し、
「ハイ! 伴です」
武智である。
「何やってんだ~~~」
「あッ、お疲れさまです」
「疲れてないよ~」
「え? あ、今、本人に呼ばれてます。すいません。また後で」
「ほほ~、やってるね。逃げんなよ。ハハハハ。それから夜の婦人部の総会、オメーも何か『芸』を見せろ。ジャ~ナー」
武智の電話が切れる。
「えッ! あ、モシモ・・・」
伴はスマホを片手に、急いで事務所のドアーを開ける。
ヨネが伴の背中に、
「頑張ってよ、アンタしか居ないんだから」
開けたドアーの前に地元の第一秘書 『大川正義』が立っている。
大川は「(元)上毛新聞政治担当記者」である。
「おお、アンタがバンケンか。ちょっと」
「あ、すいません。今、先生に」
「運転か? うちのエースだから頑張ってもらわないとな。あッ、アンタ、点数、残ってるよな」
「ハイ。勉強に成ります」
大川の言葉を無視して応接室のドアーを開ける伴。
大川は伴の背中に一言、
「おい! 耳栓買っとけよ」
つづく
中尾博康事務所(地元)応接室である。
博子が応接室のソファーに座り、週刊誌を広げて仕出弁当を食べている。
先生が軽快にビルの階段を上がって行く。
伴は『汗を拭き』ながら先生の後を追う。
先生が自分でドアノブを回し応接室のドアーを開ける。
伴が追いつき、
「あッ、すいません」
「ナニ?」
「いえ、ドアー」
「ドアー?」
先生は首を傾(カシ)げ怪訝な顔で伴を見る。
博子が先生を見て、
「おかえんなさい!」
先生は博子の弁当を見て、
「おッ! 焼き肉弁当か。旨そうだな~あ」
「お父さんのも有るわよ」
伴は疲れ果て、先生の後ろで呆然と立っている。
先生は生気(セイキ)のない伴を見て、
「? どうした。腹は減ってないのか」
「ハイ! 減りました」
「早くメシを喰いなさい」
「ハイ! 頂きます」
伴はロボットの様に身体(カラダ)を右に廻し、隣の事務所に。
事務所ではヨネと敏子が打ち合わせ机に座って仕出し弁当を食べている。
机の上にはヨネの自家製の沢庵(タクワン)が置いてある。
敏子が事務所に戻って来た伴に気付き、
「あら、お疲れ様。無事だったようね」
伴は直立不動の姿勢で、
「ハイ! 勉強になります」
ヨネが伴の態度を見て、
「だいぶ、秘書らしく成ったじゃない。後は病気に成らない事だね」
敏子が席を立って、アルミの急須にポットから湯を入れる。
敏子は伴を見て、
「早くお昼食べなさい」
「ハイ! 頂きます」
伴は空いた席に座る。
敏子は急須の茶を湯呑みに注ぎ、弁当と茶を伴の前に持って来る。
「焼き肉で良い?」
「何でも構いません」
敏子が伴の座った机に弁当と茶を置く。
弁当の蓋を開け、むさぼり喰う伴。
敏子が、
「・・・うるさいでしょう、先生」
「いえ、勉強に成ります」
ヨネが、
「タクワンも食べな」
「ハイ。頂きます」
敏子が、
「・・・ベンキヨウ? 勉強なんかに成るの? 森さん、気が狂いそうだって言ってたわよ」
「え、あの森さんがですか? あの人、明大のアメフト部の副キャプテンだったんですよ」
「そんなの関係無いわよ。森さんの前の人なんか日大の相撲部だったんだから」
ヨネが、
「三週間だっけ? あの人・・・。博康と一緒に動いて胃潰瘍で入院したんだ。可哀想にね~」
伴は二人の話など上(ウワ)の空で弁当を食べている。
敏子が
「アンタ、点数は沢山(タクサン)残ってるわよね」
伴は飯を頬張りながら。
「テンスウ?」
「免許の点数!」
「あ〜あ、ゴールドです」
「森さんはよくそこの警察署に通ってたわよ」
急に伴が飯を喉に詰まらせる。
「ゲホッ、ゲホッ」
咽せる伴を見てヨネが、
「大丈夫? お茶を飲みなさい」
伴が例によって一気に熱い茶を飲む。
「アッチーッ!」
それを見てヨネが、
「アンタ、本当にだいじょぶ?」
「ハイ、勉強になります」
敏子が伴の湯呑みに茶を注ぐ。
ヨネは呆れた顔で伴を見て、話しを続ける。
「・・・でもね、どうせ罰金はウチが持つんだから。それに文子は安全協会の副会長だしね」
伴は箸が止まり、二人の顔を凝視している。
すると博子が事務所のドアーを開けて中を覗く。
「あの~、先生がバンケンちゃんの事、呼んでますよ」
伴は起立して大声で、
「ハイッ! 今、行きます」
伴がまた熱いお茶を一気に飲み干す。
「アッチーッ! 何でこんなにアッチ~んだ!」
伴のスマホが鳴る。
スマホをポケットから取り出し、
「ハイ! 伴です」
武智である。
「何やってんだ~~~」
「あッ、お疲れさまです」
「疲れてないよ~」
「え? あ、今、本人に呼ばれてます。すいません。また後で」
「ほほ~、やってるね。逃げんなよ。ハハハハ。それから夜の婦人部の総会、オメーも何か『芸』を見せろ。ジャ~ナー」
武智の電話が切れる。
「えッ! あ、モシモ・・・」
伴はスマホを片手に、急いで事務所のドアーを開ける。
ヨネが伴の背中に、
「頑張ってよ、アンタしか居ないんだから」
開けたドアーの前に地元の第一秘書 『大川正義』が立っている。
大川は「(元)上毛新聞政治担当記者」である。
「おお、アンタがバンケンか。ちょっと」
「あ、すいません。今、先生に」
「運転か? うちのエースだから頑張ってもらわないとな。あッ、アンタ、点数、残ってるよな」
「ハイ。勉強に成ります」
大川の言葉を無視して応接室のドアーを開ける伴。
大川は伴の背中に一言、
「おい! 耳栓買っとけよ」
つづく