第20話 分析の纏めと対策
文字数 2,808文字
外堀をじわじわと埋められても、私は何もできない。焦燥感を感じた私は、次の一手を二人に諮問する。
「ここまで、思い付くまま、だらだらと僕の考えというか推測を話したので、一度結心 さんに纏めて貰いたいな」と天野さん。
そうそう、今までは、いつも天野さんに相談して分析して貰って解決策を聞いて、それを結心さんに纏めて貰ってた。今日は二人いるから、すぐに纏めて貰える。
結心さんが、直ぐに纏めてくれた。
「専門外だけど、詩織さんの専門分野に何とか接近しようとしてきた。それは、院生たちとの接触機会を増やして勉強会のようなものを構築し、その頭 である詩織さんとの自然な繋がりを作ろうとしている。ほぼ、この流れは成功しつつあると思われる」
「それで、それを潰すのは難しい?」
と私は泣きそうな気持になって質問した。
「まあ、無理ではないけど、複数の人たち――院生たちね――が複雑に絡んでくるようになるから難しいのは事実」
と天野さんが答える。
「難しくても、方法はあるよね?」
と縋る ような気持ちで聞いたら、天野さんは考える風でもなく直ぐに答えてくれた。彼は、こういうときの対策方法とかを瞬時に考え付くのだ。それが凄いと思う。
「まあ、オーソドックスな方法だけど、直ぐに対策として考えられるのは、例えばね、近藤先生との接触は殆ど院生たちに任せる。詩織は院生の指導に専念する。これが本来の姿だろうからね。だって、大学院生って、先生の指導もあるだろうけど、基本は自分たちで調べて研究して論文を書くのが仕事でしょ? これは違和感ないよね?」
「確かに、そうよね」
「だからこそ、可能な限り、院生たちを通して間接的に関与することに徹する。それが正しいはず。寧ろそうしないといけないでしょ? それは、あの先生も理解しているはずだから文句は言えないよね」
「それは、文句は言えない。近藤先生だってそうするはず」
「そうやって本筋が流れていたら、脱線もしにくいと思う。だからこそ、本来の専門から離れた議論になってきた時点で、それは院生たちの勉強の範疇から離れるからと言って断る。打ち切る理由も作り易いというわけよ」
「なるほど! 微妙なところはあるけど、私が表に出ないことで、確かに相手の本来の目的を霧散できるかも」
と少しほっとする。
「そうね、真意は別としてその先生の表面上の依頼は、要するに疑問点が解決できればいいはずなのよね。院生たちの勉強にもなるからという理由で、詩織さんは院生たちに解読を指示したわけだし。その上で、詩織さんが院生たちを指導することになるのだから、正しい流れだと思う」
と結心さんも賛成してくれた。
「さっきも言ったけど、その近藤先生というのは、どんな人なんだろうねぇ? 僕らは会ったことないから、正直想像もできない。それよりも悪意があるのか善意なのかも分からない。人柄も知りたいよねぇ」
と天野さんが近藤先生の人柄を知りたいと言う。
「そうそう! 私も詩織さんのことが心配なのよねぇ。良い人か悪い人か。危害を加えられないか? とか」
と結心さんも心配してくれる。
「そうなのよね、でもそれは、私だけでは分からないから、天野さんや結心さんが会ってから評価してみてくれないかなぁ?」
無責任に聞こえるかも知れないけど、正直に言って、私はもう考えられなくなってしまっているのだ。
「え? 僕等が会うの? どうやって? どこで?」
「そりゃ、私の研究室に来てもらって、近藤先生がその時間にくるように仕向けて、紹介したら話ができるとか」
「おいおい、どんな理由で共通の話題を作るのよ?」
「それは考えるけど、私の姉の先輩と結心さんはその彼女だって紹介すればいい」
「ちょっと待って! 天野さんは詩織さんの仮想彼氏じゃなかった?」
と結心さんが口を挟む。
「それは……後でなんとでもなるでしょ?」と私。
「詩織さん意外とずさんね」
と結心さんがあきれて笑う。
「何だって? 仮想彼氏って何のこと?」
と天野さんが結心さんに聞く。
「あのね、『彼氏がいる』と言ったときにイメージがわかないかも知れないから、そのときは天野さんを念頭にイメージして言えばいいということになったの」
と結心さんは何事もないようにサラリと言った。
「あのなぁ、あんた等 怖いわ」
「仮想としてでも、彼氏候補にしてあげたんだから、名誉に思ってもいいんじゃない?」
と私が上から目線で畳み掛けた。
「結心さんの彼氏扱いなら嬉しいけど、詩織はなぁ……」
と天野さん。――失礼な!
「あら! 私の彼氏候補にもなってるんよ? もしも、こういう事件に私が巻き込まれたら貸してなって」
と結心さんがバラす。
「なんと! もはや僕は、物扱いなのか」
と天野さんは落ち込んだ振りをして笑った。案外喜んでいるんじゃないかと思うわ。
「まあそれはともかく、僕等がそこに行く理由は何よ? 飲み屋じゃあるまいし、そこで会ったからと言って話なんてないわ」
私が結心さんに「アイデアない?」と聞いたら、
「う~ん、難しいなあ」と返された。
「そうだ! 結心さん、ライン交換しとかない? 仮想彼氏の練習しとかんとなぁ」
と天野さんが唐突に話を変えた。
……ちょっと! 近藤先生とどうやって会うかという話をしてたでしょ?
「ええよ! 交換しよっ! しよ!」
と結心さんが二つ返事。
……突如、ラインの話に変わった。貴方たち、どういう感覚なの?
そんな練習なんて必要ないでしょ? アイデア交換? ここで話したらいいじゃない?
……私は置いてけぼり。……もう好きにして。
「送ったよ」
と結心さんが言うと、天野さんのスマホから音が聞こえた。
「これで登録完了やな。愛のハートマーク送ったぜ」
と嬉しそうな天野さん。
「来た! ありがとう! 私も愛のマーク!」と結心さん。
「届いた! わーい!」と天野さん。
貴方たち、目の前でスマホ通信しながら、声出して読まないでもいいのよ!
「詩織もスマホ持ったらいいのに」
と天野さんが言うけど、私は持たない。
「携帯電話不要。スマホも不要」と、頑固な私。
「でも、私たちが学校に行ってその先生に会うなんて、本当に理由はないと思うわ。それよりも、街中で――例えば一番街とかで――ばったり会って、ちょっとお茶でも飲もうって言うほうが、余程自然じゃと思うけどなぁ」
と結心さんが提案する。
「そうじゃ! それが自然じゃ! 結心さんとデートもできるし」
と、天野さんが嬉しそうに言う。
「そこ?」と結心さんが笑う。
「でも、私が近藤先生を連れて行くとなれば、それはあの近藤先生の思うツボじゃない? それは嫌なのよ」
「難しいわね。このことは、改めて何か方法を考えようよ」
と適当なところで話を切り上げる結心さんは賢い。
「そうね。さっきの対策で、当面は何も問題ない。慌てることはないから、どっしりしていればいい」
と天野さんが締めくくった。
「ここまで、思い付くまま、だらだらと僕の考えというか推測を話したので、一度
そうそう、今までは、いつも天野さんに相談して分析して貰って解決策を聞いて、それを結心さんに纏めて貰ってた。今日は二人いるから、すぐに纏めて貰える。
結心さんが、直ぐに纏めてくれた。
「専門外だけど、詩織さんの専門分野に何とか接近しようとしてきた。それは、院生たちとの接触機会を増やして勉強会のようなものを構築し、その
「それで、それを潰すのは難しい?」
と私は泣きそうな気持になって質問した。
「まあ、無理ではないけど、複数の人たち――院生たちね――が複雑に絡んでくるようになるから難しいのは事実」
と天野さんが答える。
「難しくても、方法はあるよね?」
と
「まあ、オーソドックスな方法だけど、直ぐに対策として考えられるのは、例えばね、近藤先生との接触は殆ど院生たちに任せる。詩織は院生の指導に専念する。これが本来の姿だろうからね。だって、大学院生って、先生の指導もあるだろうけど、基本は自分たちで調べて研究して論文を書くのが仕事でしょ? これは違和感ないよね?」
「確かに、そうよね」
「だからこそ、可能な限り、院生たちを通して間接的に関与することに徹する。それが正しいはず。寧ろそうしないといけないでしょ? それは、あの先生も理解しているはずだから文句は言えないよね」
「それは、文句は言えない。近藤先生だってそうするはず」
「そうやって本筋が流れていたら、脱線もしにくいと思う。だからこそ、本来の専門から離れた議論になってきた時点で、それは院生たちの勉強の範疇から離れるからと言って断る。打ち切る理由も作り易いというわけよ」
「なるほど! 微妙なところはあるけど、私が表に出ないことで、確かに相手の本来の目的を霧散できるかも」
と少しほっとする。
「そうね、真意は別としてその先生の表面上の依頼は、要するに疑問点が解決できればいいはずなのよね。院生たちの勉強にもなるからという理由で、詩織さんは院生たちに解読を指示したわけだし。その上で、詩織さんが院生たちを指導することになるのだから、正しい流れだと思う」
と結心さんも賛成してくれた。
「さっきも言ったけど、その近藤先生というのは、どんな人なんだろうねぇ? 僕らは会ったことないから、正直想像もできない。それよりも悪意があるのか善意なのかも分からない。人柄も知りたいよねぇ」
と天野さんが近藤先生の人柄を知りたいと言う。
「そうそう! 私も詩織さんのことが心配なのよねぇ。良い人か悪い人か。危害を加えられないか? とか」
と結心さんも心配してくれる。
「そうなのよね、でもそれは、私だけでは分からないから、天野さんや結心さんが会ってから評価してみてくれないかなぁ?」
無責任に聞こえるかも知れないけど、正直に言って、私はもう考えられなくなってしまっているのだ。
「え? 僕等が会うの? どうやって? どこで?」
「そりゃ、私の研究室に来てもらって、近藤先生がその時間にくるように仕向けて、紹介したら話ができるとか」
「おいおい、どんな理由で共通の話題を作るのよ?」
「それは考えるけど、私の姉の先輩と結心さんはその彼女だって紹介すればいい」
「ちょっと待って! 天野さんは詩織さんの仮想彼氏じゃなかった?」
と結心さんが口を挟む。
「それは……後でなんとでもなるでしょ?」と私。
「詩織さん意外とずさんね」
と結心さんがあきれて笑う。
「何だって? 仮想彼氏って何のこと?」
と天野さんが結心さんに聞く。
「あのね、『彼氏がいる』と言ったときにイメージがわかないかも知れないから、そのときは天野さんを念頭にイメージして言えばいいということになったの」
と結心さんは何事もないようにサラリと言った。
「あのなぁ、あんた
「仮想としてでも、彼氏候補にしてあげたんだから、名誉に思ってもいいんじゃない?」
と私が上から目線で畳み掛けた。
「結心さんの彼氏扱いなら嬉しいけど、詩織はなぁ……」
と天野さん。――失礼な!
「あら! 私の彼氏候補にもなってるんよ? もしも、こういう事件に私が巻き込まれたら貸してなって」
と結心さんがバラす。
「なんと! もはや僕は、物扱いなのか」
と天野さんは落ち込んだ振りをして笑った。案外喜んでいるんじゃないかと思うわ。
「まあそれはともかく、僕等がそこに行く理由は何よ? 飲み屋じゃあるまいし、そこで会ったからと言って話なんてないわ」
私が結心さんに「アイデアない?」と聞いたら、
「う~ん、難しいなあ」と返された。
「そうだ! 結心さん、ライン交換しとかない? 仮想彼氏の練習しとかんとなぁ」
と天野さんが唐突に話を変えた。
……ちょっと! 近藤先生とどうやって会うかという話をしてたでしょ?
「ええよ! 交換しよっ! しよ!」
と結心さんが二つ返事。
……突如、ラインの話に変わった。貴方たち、どういう感覚なの?
そんな練習なんて必要ないでしょ? アイデア交換? ここで話したらいいじゃない?
……私は置いてけぼり。……もう好きにして。
「送ったよ」
と結心さんが言うと、天野さんのスマホから音が聞こえた。
「これで登録完了やな。愛のハートマーク送ったぜ」
と嬉しそうな天野さん。
「来た! ありがとう! 私も愛のマーク!」と結心さん。
「届いた! わーい!」と天野さん。
貴方たち、目の前でスマホ通信しながら、声出して読まないでもいいのよ!
「詩織もスマホ持ったらいいのに」
と天野さんが言うけど、私は持たない。
「携帯電話不要。スマホも不要」と、頑固な私。
「でも、私たちが学校に行ってその先生に会うなんて、本当に理由はないと思うわ。それよりも、街中で――例えば一番街とかで――ばったり会って、ちょっとお茶でも飲もうって言うほうが、余程自然じゃと思うけどなぁ」
と結心さんが提案する。
「そうじゃ! それが自然じゃ! 結心さんとデートもできるし」
と、天野さんが嬉しそうに言う。
「そこ?」と結心さんが笑う。
「でも、私が近藤先生を連れて行くとなれば、それはあの近藤先生の思うツボじゃない? それは嫌なのよ」
「難しいわね。このことは、改めて何か方法を考えようよ」
と適当なところで話を切り上げる結心さんは賢い。
「そうね。さっきの対策で、当面は何も問題ない。慌てることはないから、どっしりしていればいい」
と天野さんが締めくくった。