第3話 姉の先輩に電話
文字数 2,538文字
私には1つ上の姉 沙織 がいるけど、近くに家を建てて、やっぱり独り暮らし。
独身なのに大きな家は勿体ないと言ったら、「将来 あんたと一緒に住むつもり」だって。「え~? 私も結婚しないことになってるの? 分からないじゃん」って言ったら、「そのときは好きにしたらええ」と宣う。
長女風吹かさないでよね、1才しか違わないんだから。
姉は、県内トップの進学校と言われている県立普通科から県外の国立大学に進み、研究者になっている。バタバタしながら《毒身腐族》だ。姉は、あれだけ男性が周りにうろうろしてたのに、結局結婚しなかった。というか、恋愛したという話も聞いてない。美人姉妹と言われてたのに、私たち姉妹は色気がない? そうではなくて、なんか、恋愛とか結婚とか面倒なのかも知れない。仕事が面白かったのもある。両親が早くに亡くなって、結婚しろとうるさく言われなかったのも影響しているかもしれない。
私は、女子大の付属高校からエスカレーターで大学に進み、卒業後は母校の講師を経て、現在は准教授になっている。
私は姉と違って、優雅な独身貴族。……まあ、優雅なんてことは口に出さないけれど。
学生時代には、姉の高校時代の先輩が、ちょくちょく家へ遊びに来ていた。不思議なことに、女性の同級生たちもいたけれど、男性の同級生やら先輩もたくさんいた。もちろん、その頃は母も生きていたので、母とも友達みたいにその先輩たちは話をしていた。
最初は、彼氏みたいな雰囲気でもないし、なぜ遊びにくるのか? なんなんだろう? と思っていたけど、あるとき偶然私も彼らと直接話してみたら、あっけらかんとした面白い人たちだった。つまり、男女ではなく、気の合う仲間たちなのだ。部活の先輩だとか。
それ以来、私も何かあったら気軽に電話して相談したりお願いしたりしている。もう、私の友達みたいなものだ。姉を通さずに直接連絡ができる。それも気楽に。私は、男性の知り合いが少ないから、姉のこうした友達が多いのは、本当に便利だ。
その中の1人が、東京の大学に行って東京で就職してたけど、脱サラだとか言ってユーターンし、小さな会社の社長さんになっている。コンピュータのソフトウェア開発をしている会社らしいが、社員の数は大していないので「社長 兼 ぺーぺー じゃ。いよっ! 貧乏社長! と呼んでくれ」と言っていた。
このぺーぺー兼務の社長さんは天野 智敬 さんと言うのだが、歯に衣着せぬ物言いをするのだけれども、ズバリと核心をついてくる。「一を聞いて十を知る」わけではないだろうが、話をすればすぐに内容を理解して、即座に分析しつつ解説してくれる。そして、迷わず解決策を示してくれるから頼りがいがあるので、皆が弁護士とか税理士とか医者などに相談すべき事案まで取り敢えず相談する。「なんでワシに相談するんや? ワシは素人やで」と言いながらも丁寧に対応してくれるのだ。もちろん、最後は「ちゃんと専門家に相談するんやで」と言って。
弁護士に相談したけど難しいと言われ、納得できないから天野さんに相談して指導されたとおりにしたら、相手の弁護士が諦めたという話を聞いたこともある。こんな便利な天野さんなら、今回の相談なんか正 しく適任者だと思う。
「もしもし? こんにちは! お久し振りです!」
と天野さんに、少し可愛い声で電話した。
「おう! 久しぶりじゃなぁ! 生きとったんか?」
相変わらず、明るい声の岡山弁で返事してくれた。
――普通は「元気か?」と聞くだろうに、「生きてたか?」はないでしょ!
「そりゃぁ、もちろん! 元気ですよ!」
「ま、口だけは元気なんじゃな。で、何の相談なんじゃ? 用もないのに、あんた電話してこんじゃろ」
早速、鋭い突っ込みで切り込んできた。この人は気楽な人なんだけど、話のテンポが早いので、負けないように気を張るからか、ちょっと緊張する。ま、私の先輩じゃないから、私の頭の中では友達レベルの扱いなの。
「えー? 久し振りの可愛い妹分からの電話に、そんな言い方ないでしょ? もう!」
「どこが可愛いんじゃ? 愛の告白しても、ワシは騙されんで」
「ふん! そんなんせんわ!」
「わはは。安心したで。……で、恋の悩みか?」
え? 早くも核心に突入? どんな発想で、こういう流れになるんだろう?
「なんで分かるん?」
「他にないじゃろ? あんたには金の悩みは無縁じゃろうし、仕事の話しはワシャ相談に乗れんし。それしかないじゃろ?」
「あのねぇ、私の人生って、それだけなん? 失礼な!」
「えっ? 他にもあるんか?」
う~ん、反論はしてみたけど、どうせ口では勝てそうにないから、抵抗はしない。
「それは置いといて、電話じゃ説明しにくいから会えない?」
「おっ? 会ってイチャイチャする? ええよ」
「違うでしょ? そ・う・だ・ん!」
「なんや、違うんか? 残念やったなぁ! 仕方ないから会うてやるか。ほんなら、これから会社の事務所に来る?」
ああ、今日は土曜日だから休みなのか。「休日出勤?」と聞いたら「貧乏暇なしや」と返ってきた。
今日電話して今すぐOKだなんて、天野さん暇なんですか? なんて、言ったら墓穴掘りそうだから、黙っておこう。
「私、アシがないからなぁ。迎えにきて欲しいなぁ」と可愛く言う。
「わがままな奴じゃなぁ。それが他人様 に相談する人間のセリフか?」
そりゃまあ、可愛く言ったつもりなのだけど、効果がないなら言い方を代えるしかない。
「あ、ごめんなさい! 迎えに来なくていいから、私のマンションに来てくれない? 美味しいお菓子とティーを用意するから。ね? お願い!」
これならどう? 色気あるでしょ?
「色気がないから、食い物で釣るんじゃな?」
もう! 本当に失礼ね!
「はいはい、そのとおりでございます!」
「返事は1つでええ」
「は~い!」
「間延びせんでもええ」
うるさいなぁ、もう!
「はいっ!」
「30分ほどで行けるわ。駐車場はあるんか?」
「マンションの裏のところは来客用だから、どこにでも駐車していいわよ」
「ほい。じゃあな」
私としては、迎えに来て貰うのも、来て貰うのも同じことなんだけどね。うふふ、私の勝ちね。――これは陰の声です。
独身なのに大きな家は勿体ないと言ったら、「将来 あんたと一緒に住むつもり」だって。「え~? 私も結婚しないことになってるの? 分からないじゃん」って言ったら、「そのときは好きにしたらええ」と宣う。
長女風吹かさないでよね、1才しか違わないんだから。
姉は、県内トップの進学校と言われている県立普通科から県外の国立大学に進み、研究者になっている。バタバタしながら《毒身腐族》だ。姉は、あれだけ男性が周りにうろうろしてたのに、結局結婚しなかった。というか、恋愛したという話も聞いてない。美人姉妹と言われてたのに、私たち姉妹は色気がない? そうではなくて、なんか、恋愛とか結婚とか面倒なのかも知れない。仕事が面白かったのもある。両親が早くに亡くなって、結婚しろとうるさく言われなかったのも影響しているかもしれない。
私は、女子大の付属高校からエスカレーターで大学に進み、卒業後は母校の講師を経て、現在は准教授になっている。
私は姉と違って、優雅な独身貴族。……まあ、優雅なんてことは口に出さないけれど。
学生時代には、姉の高校時代の先輩が、ちょくちょく家へ遊びに来ていた。不思議なことに、女性の同級生たちもいたけれど、男性の同級生やら先輩もたくさんいた。もちろん、その頃は母も生きていたので、母とも友達みたいにその先輩たちは話をしていた。
最初は、彼氏みたいな雰囲気でもないし、なぜ遊びにくるのか? なんなんだろう? と思っていたけど、あるとき偶然私も彼らと直接話してみたら、あっけらかんとした面白い人たちだった。つまり、男女ではなく、気の合う仲間たちなのだ。部活の先輩だとか。
それ以来、私も何かあったら気軽に電話して相談したりお願いしたりしている。もう、私の友達みたいなものだ。姉を通さずに直接連絡ができる。それも気楽に。私は、男性の知り合いが少ないから、姉のこうした友達が多いのは、本当に便利だ。
その中の1人が、東京の大学に行って東京で就職してたけど、脱サラだとか言ってユーターンし、小さな会社の社長さんになっている。コンピュータのソフトウェア開発をしている会社らしいが、社員の数は大していないので「社長 兼 ぺーぺー じゃ。いよっ! 貧乏社長! と呼んでくれ」と言っていた。
このぺーぺー兼務の社長さんは
弁護士に相談したけど難しいと言われ、納得できないから天野さんに相談して指導されたとおりにしたら、相手の弁護士が諦めたという話を聞いたこともある。こんな便利な天野さんなら、今回の相談なんか
「もしもし? こんにちは! お久し振りです!」
と天野さんに、少し可愛い声で電話した。
「おう! 久しぶりじゃなぁ! 生きとったんか?」
相変わらず、明るい声の岡山弁で返事してくれた。
――普通は「元気か?」と聞くだろうに、「生きてたか?」はないでしょ!
「そりゃぁ、もちろん! 元気ですよ!」
「ま、口だけは元気なんじゃな。で、何の相談なんじゃ? 用もないのに、あんた電話してこんじゃろ」
早速、鋭い突っ込みで切り込んできた。この人は気楽な人なんだけど、話のテンポが早いので、負けないように気を張るからか、ちょっと緊張する。ま、私の先輩じゃないから、私の頭の中では友達レベルの扱いなの。
「えー? 久し振りの可愛い妹分からの電話に、そんな言い方ないでしょ? もう!」
「どこが可愛いんじゃ? 愛の告白しても、ワシは騙されんで」
「ふん! そんなんせんわ!」
「わはは。安心したで。……で、恋の悩みか?」
え? 早くも核心に突入? どんな発想で、こういう流れになるんだろう?
「なんで分かるん?」
「他にないじゃろ? あんたには金の悩みは無縁じゃろうし、仕事の話しはワシャ相談に乗れんし。それしかないじゃろ?」
「あのねぇ、私の人生って、それだけなん? 失礼な!」
「えっ? 他にもあるんか?」
う~ん、反論はしてみたけど、どうせ口では勝てそうにないから、抵抗はしない。
「それは置いといて、電話じゃ説明しにくいから会えない?」
「おっ? 会ってイチャイチャする? ええよ」
「違うでしょ? そ・う・だ・ん!」
「なんや、違うんか? 残念やったなぁ! 仕方ないから会うてやるか。ほんなら、これから会社の事務所に来る?」
ああ、今日は土曜日だから休みなのか。「休日出勤?」と聞いたら「貧乏暇なしや」と返ってきた。
今日電話して今すぐOKだなんて、天野さん暇なんですか? なんて、言ったら墓穴掘りそうだから、黙っておこう。
「私、アシがないからなぁ。迎えにきて欲しいなぁ」と可愛く言う。
「わがままな奴じゃなぁ。それが
そりゃまあ、可愛く言ったつもりなのだけど、効果がないなら言い方を代えるしかない。
「あ、ごめんなさい! 迎えに来なくていいから、私のマンションに来てくれない? 美味しいお菓子とティーを用意するから。ね? お願い!」
これならどう? 色気あるでしょ?
「色気がないから、食い物で釣るんじゃな?」
もう! 本当に失礼ね!
「はいはい、そのとおりでございます!」
「返事は1つでええ」
「は~い!」
「間延びせんでもええ」
うるさいなぁ、もう!
「はいっ!」
「30分ほどで行けるわ。駐車場はあるんか?」
「マンションの裏のところは来客用だから、どこにでも駐車していいわよ」
「ほい。じゃあな」
私としては、迎えに来て貰うのも、来て貰うのも同じことなんだけどね。うふふ、私の勝ちね。――これは陰の声です。