第47話 講習会の日程が決定

文字数 2,957文字

 水曜日、帰る途中、パンを買いに結心さんのお店に寄った。相変わらず、結心さんがにこにこしながら、私に報告してくれた。

「どうしたの? 嬉しそうだねぇ?」
 気を利かせて質問してあげた。
「今度の日曜日、天野さんの会社に行って、講習会資料作成のお手伝いをするの」
「え? 結心さん、そんなことできるの?」
「多分できると思うのよ。えへへ」
 
「本当に?! アクセス知らないって言ってたじゃない?」
「アクセスはできないけど、パソコンで画像をトリミングしたりするくらいなら、多分大丈夫」
 結心さんは鼻歌でも歌いそうだ。
「さすが、一流企業でOLしてただけのことはあるのねぇ!」
 パソコン苦手の私は感心する。

「私、パソコンで何かをする必要が無いから持ってないけど、パワーポイントくらいならできるからね」
 結心さんは自信たっぷり。
「凄い! さすが美人秘書!」
「うふ~ん。その言葉、響きがいいわねぇ」
 でれでれする結心さん。
「あ、それでね。日曜日1日で資料を仕上げてしまえるみたいよ」
 結心さんが衝撃発言。
「えっ?! そうなの? 随分早いねぇ!」
「ちょっと、天野さんと話してみる?」
「いいの?」
「ちょっと待ってね」
 結心さんがスマホを取り出して電話してくれた。

「もしもし、社長秘書の森山でございます。今、矢野先生が来られてまして、お電話を変わらせて頂いてよろしいでしょうか?」
「…………」
 天野さんの声は、こちらには聞こえない。
「はい、かしこまりました。それでは変わります」
 と言って、スピーカーにして、私に喋るように促した。
「こんばんは。お忙しいのに済みません。今聞いたのですけど、今度の日曜日に出来上がる予定だとか……」
 と私は話し掛けた。
「ああ、こんばんは。そう、森山さんが手伝ってくれることになったから、早くできそう。中身は、もうチェックしたから、あれでできる」
「ありがとうございます。昨日、打ち合わせしたのだけど、学生が全部で26人+私と近藤先生で2人の計28人になります。場所は教室です」

「ああ、了解。……だから、来週でも講習会できるよ」
「え? そうですか? じゃあ、日程調整してみますね? 火曜日か木曜日の午後1時半は大丈夫ですか?」
「大丈夫。こちらのノートブックを持っていくけれど、プロジェクターへの接続ケーブルはUSBがあるのかな? 確認しておいて」
「はい。分かりました。明日、また電話させていただきますね」
「了解。じゃ、美人秘書に変わって」
「はい! 変わりました!」
 と結心さんが答える。
「あとでラインしてね」
「かしこまりました!」

 なんだと? 秘書ごっこに巻き込まれてたのか? 結心さんがにこにこしてる。

「な? できるって言ってたじゃろ? 予定より早くなるから、良かったね」
 結心さんがにこにこしながら言った。
「結心さんも手伝ってくれるの嬉しいよ。ありがとう」
「私もわくわくしてるの。デートもできるし、手伝えるって嬉しいし」
「天野さんの会社に行くの初めてだよね?」
「うん、こちらへ迎えに来てくれるから大丈夫」
「あ、そうだね。……じゃ、明日日程調整して、天野さんへこちらから連絡しておくね。講習会には結心さんも来てくれるの?」
「そりゃ、もちろん。社長秘書じゃからな」

「打ち上げの食事会は別の日がいい?」
「それは、天野社長と相談しておきますね」
 と結心さんがウインクした。
「はいはい。貴方たち、いつもそういう調子なの?」
「え~? もっともっと甘い会話よぉ」
「もう! 聞くんじゃなかったわ!」
 笑いながら言って、「またね~」と手を振って道路に出た。

 思ったより早く、物事が進んでいく。私と近藤先生との関係も、早く進んでいくかも知れない予感がする。ちょっと、どきどきしてるかも……。

 ――――――――――――――――

 木曜日、学校に行くと講習会を担当する子がいたので、来週の火曜日か木曜日の13:30に講習会ができそうなので、できれば木曜日で日程調整をしてくれるように指示した。
「近藤先生には、今、私が電話して伝えるから、あとの調整はお願いしていい?」
 と言いながら、内線電話の番号を調べて電話した。

「もしもし、矢野です。いつもお世話になります。今、お電話よろしいですか?」
「こちらこそ、いつもありがとうございます。ええ大丈夫です」
「昨夜、天野さんと電話でお話して、講習会資料は今度の日曜日には仕上がる予定だそうです。それで、講習会を来週の火曜か木曜日にどうかと」
「わぁ! すごく早いですねぇ! 来週はどちらでもいいですが、矢野先生のご都合に合わさせていただきます」
「ありがとうございます。じゃ、余裕のあるほうがいいので、来週の木曜日13:30ということでいいですか?」
「はい、結構です」
 近藤先生が即答。
「学生たちの日程もあるかも知れませんので、一応みんなの都合を確認していただけますか? こちらもこれから確認します」
「分かりました。まあ、人数が多いので、数人は欠席が出るかも知れませんが、それは仕方ないということで割り切りたいと思います」
 近藤先生はビジネスライクに割り切る。
「それでは、それで調整させていただきます。よろしくお願いいたします」

 電話を終えて、院生の子に結論を指示した。
「今聞いたように、木曜日で調整してみてね。欠席者が多いようなら変更の必要があるかも知れないけど、数人欠席程度なら予定どおりで」
「はい! 分かりました! 今日中にみんなの確認をして、近藤先生のところの結果も聞いておきます」
 この子は頼りになる。

 続いて、天野さんの携帯へ外線電話。
「昨夜はお電話ありがとうございました。今、電話よろしいですか?」
「いいですよ」
「一応余裕を持って、来週の木曜日13:30で調整しています。これでよろしいでしょうか?」
「余裕があるから、絶対大丈夫。それで、プロジェクタへの接続はUSBケーブルあるか聞いてみてくれた?」
「あ、忘れてました! すぐ確認して連絡します」
「はーい。まあ、だめなときは、パワーポイントデータをUSBに入れて持っていくから、そちらのパソコンでもいいけどね」
「確認しますね。一旦切らせてください」

 慌てて、近藤先生に電話を入れた。
「すみません。プロジェクタへの接続はUSBでできるのか? ケーブルあるのか? を確認して欲しいと言われました」
「ああ、大丈夫です。色々な接続に対応できます。USBもマイクロUSBやCタイプもいけます」
「え、え~と、マイクロUSBもCタイプもあると言えばわかるのですよね?」
「はい、分かるはずです。最近のノートブックは、そうなりますから」
「ありがとうございます。それでは失礼します」

 受話器を持ったまま、天野さんに電話。ああ、忙しい。まあ、座ったままだけど。
「度々ごめんなさい。いいですか?」
「はい、どうぞ」
「近藤先生に確認したら、マイクロUSBもCタイプもあるから大丈夫と言われました」
「おお、流石に近藤先生は色々と準備してるんじゃなぁ。了解しました」
「私はよく分からないけど、言えば分かると言われたから」
 私は苦笑してしまつた。
 

 夕方、近藤先生のところも私のところも、基本的には全員大丈夫だったので、天野さんにまた電話して来週木曜日13:30で確定させた。

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登場人物紹介

矢野 詩織 《やの しおり》

大学准教授

近藤 克矩 《こんどう かつのり》

大学教授

天野 智敬 《あまの ともたか》

ソフトウェア会社社長

森山 結心 《もりやま ゆい》

パン屋さんの看板娘

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