第十七話 運命の勇者ミア
文字数 2,487文字
サバナには標高三百mの小さな山がある。山は背の低い緑の草に覆われており、台形状になっている。山の頂上は下方向に十五mほど窪んでいた。山の頂上はホーエンハイムでは知らない者はいない、ドンガレオンの巣である。
カエサルはドンガレオンの巣に続く山を猪を担いで登っていた。
山頂の端から中央を見ると、赤茶けた大地と、骨が散らばる大地が見えた。ドンガレオンが留守だったので、猪を中央に置く。
(豚を寄越せと指示していたが、猪でも同じじゃろう。腹に入ってしまえば皆、肉よ)
ドンガレオンの巣から下りて山を下って行く時に、叢 に隠れる四つの気配に気が付いた。
(感じが悪いものではないな、ドンガレオンの調査にでも来た冒険者かのう)
カエサルが気配のしている方向を凝視していると、革鎧に身を包んだ三人の男たちが立ち上がる。男たちは隠密行動に適した革鎧を着ていた。
三人は二十代くらいの若い男の冒険者だった。冒険者ギルドでは見ない顔なので、他の街の冒険者か、つい最近ホーエンハイムに来た冒険者に見えた。
男たちの先頭にいた冒険者が怪訝な顔で尋ねる。
「君はこんな危険なところで、何をしていたんだい?」
「我の名はカエサル。観光がてらドンガレオンの巣を見に来たところじゃ。親切心でアドバイスするが、ここに長居せぬほうがいいぞ。ドンガレオンに遭遇すると危険じゃ」
三人は複雑な顔で見合わせる。
「ところで、三人の後ろで隠れている冒険者は挨拶せぬつもりか?」
三人の顔がはっとなる。三人の後ろで空間から陽炎が立つと、一人の女性が姿を現した。
女性の身長は百五十五㎝、細身の体型で、白い肌をしていた。髪の色は金色で瞳の色は青。小顔で、人形のように美しい顔をしていた。
服装は黒い上下の厚手の服を着ていて、手には木製の両手杖を持っている。魔法で戦うタイプの冒険者と思われた。
女性がにっこりと微笑む。
「私の名はミア。運命の女神の勇者よ。よく、私の勇者技『透明の帳』を見破れたわね。貴方は、ただの銀等級冒険者じゃないわね」
(ミアの勇者技は姿を隠す技か。いつから使っているかは知らぬが、汗を掻いておらぬようだから。技量はセシリアより上か)
「ただの銀等級どころか、銀等級でもないわ。我は、まだ青銅等級よ」
カエサルの発言に、三人の冒険者は顔を見合わせて驚く。
ミアだけが澄ました顔でカエサルの言葉を否定する。
「冗談がお上手なのね。でも、私はその手の冗談は嫌いなの」
(やけに突っ掛かってくるのう。あまり感じの良い対応ではないし、早々に立ち去るに限るか。ここに、ドンガレオンが帰ってくると、面倒じゃ)
「どうとでも、好きに取るがよい。我は暗くなる前にここを出たいゆえ、失礼する」
カエサルは背を向けると小走りに山を下り、ミアから見えない位置からは本気で走ってサバナを抜けた。
ホーエンハイムに戻ると、汗を水で流し、パーティ募集の掲示板を確認する。
掲示はいつも数件ある。だが、冒険者等級が合わなかったり、仲が悪そうだったりとか、思うようなパーティは見つからなかった。
デボラに「良いパーティの募集があったら教えてくれ」と頼んでいるが、いつも首を横に振るばかりだった。
(セシリアが、まあまあよい仲間じゃったから、少し他人を厳しく見すぎているのかもしれん。多少とも人間関係が悪そうでも、一度ぐらい募集に乗ってみたほうがいいのかのう)
翌朝、冒険者ギルドで食事を摂っていると、ミアが入ってきた。
前回に見た若い男の冒険者三人の姿は、なかった。ミアは依頼報告カウンターに行き、何か白っぽい品を置く。
ミアがデボラと話すと、デボラは沈痛な表情で小さな袋を渡した。
(何じゃ、あまりいい感じではないの。察するに、依頼の品は手に入ったが、仲間を失ったか?)
ミアがデボラと話し終えると、カエサルの向かいの席に腰掛け、涼しい顔で誘う。
「こんにちは、カエサルさん。いい儲け話があるの、乗らない?」
カエサルはミアの勧誘に気乗りがしなかった。
「ミアにはすでに三人の仲間がおるじゃろう。四人では人手が足りぬ仕事なのか?」
ミアがつんとした顔で打ち明ける。
「前の三人なら、駄目ね。ドンガレオンに喰われちゃった」
仲間もモンスターに食われたと申告したミアだったが、悲しみも憎しみもなかった。
ミアの様子はモンスターと戦っていたら、武器が壊れたくらいにしか思っていないようだった。
慰めの言葉を掛けてみる。
「それは、辛いのう。お悔やみ申し上げる」
ミアは全く気にした様子もなく告げる。
「別に、いいのよ。パーティなんてまた組めばいいわ。それで、どう? 私と組まない? 私と組むと、稼げるわよ。死ななければ、だけど」
カエサルは、ミアとは上手くやっていけないと思ったので、拒絶した。
「我は冒険の旅をする仲間を捜している。でも、それは、ミアではない」
ミアが冷たく微笑む。
「あら、もったいない。私は勇者よ。勇者と一緒に冒険すれば、名誉も各種特典も付いてくるわ。依頼だって良い条件のが受けられるわよ」
「特典や加護は不要。我は剣一本で覇道を進む冒険者よ」
ミアが馬鹿にしたように笑う。
「嫌だ。何それ? 寒いわ。十銅貨冒険芝居の勇者みたい」
「笑いたいなら、どうとでも笑え。我は我が道を行く」
ミアは薄笑いを浮かべて立ち上がる。
「残念だけど、お話にならないわね。後悔しない状況を祈るわ」
「我が心は変わらぬ。後悔もせぬ。そんな暇があったら、前を見て進む」
ミアはその後、デボラと話す。パーティ募集掲示板に新たな募集が貼られた。
募集主は勇者ミアとなっており、鉄等級以上の冒険者が募集されていた。
鉄等級で勇者と組めると、すぐに知れた。
ミアの性格を知らない冒険者は、詳しい条件を聞きに依頼受付カウンターに行く。
「止めておけばいいものを」と思ったカエサルだが、他人の選択なので口は出さなかった。
カエサルはドンガレオンの巣に続く山を猪を担いで登っていた。
山頂の端から中央を見ると、赤茶けた大地と、骨が散らばる大地が見えた。ドンガレオンが留守だったので、猪を中央に置く。
(豚を寄越せと指示していたが、猪でも同じじゃろう。腹に入ってしまえば皆、肉よ)
ドンガレオンの巣から下りて山を下って行く時に、
(感じが悪いものではないな、ドンガレオンの調査にでも来た冒険者かのう)
カエサルが気配のしている方向を凝視していると、革鎧に身を包んだ三人の男たちが立ち上がる。男たちは隠密行動に適した革鎧を着ていた。
三人は二十代くらいの若い男の冒険者だった。冒険者ギルドでは見ない顔なので、他の街の冒険者か、つい最近ホーエンハイムに来た冒険者に見えた。
男たちの先頭にいた冒険者が怪訝な顔で尋ねる。
「君はこんな危険なところで、何をしていたんだい?」
「我の名はカエサル。観光がてらドンガレオンの巣を見に来たところじゃ。親切心でアドバイスするが、ここに長居せぬほうがいいぞ。ドンガレオンに遭遇すると危険じゃ」
三人は複雑な顔で見合わせる。
「ところで、三人の後ろで隠れている冒険者は挨拶せぬつもりか?」
三人の顔がはっとなる。三人の後ろで空間から陽炎が立つと、一人の女性が姿を現した。
女性の身長は百五十五㎝、細身の体型で、白い肌をしていた。髪の色は金色で瞳の色は青。小顔で、人形のように美しい顔をしていた。
服装は黒い上下の厚手の服を着ていて、手には木製の両手杖を持っている。魔法で戦うタイプの冒険者と思われた。
女性がにっこりと微笑む。
「私の名はミア。運命の女神の勇者よ。よく、私の勇者技『透明の帳』を見破れたわね。貴方は、ただの銀等級冒険者じゃないわね」
(ミアの勇者技は姿を隠す技か。いつから使っているかは知らぬが、汗を掻いておらぬようだから。技量はセシリアより上か)
「ただの銀等級どころか、銀等級でもないわ。我は、まだ青銅等級よ」
カエサルの発言に、三人の冒険者は顔を見合わせて驚く。
ミアだけが澄ました顔でカエサルの言葉を否定する。
「冗談がお上手なのね。でも、私はその手の冗談は嫌いなの」
(やけに突っ掛かってくるのう。あまり感じの良い対応ではないし、早々に立ち去るに限るか。ここに、ドンガレオンが帰ってくると、面倒じゃ)
「どうとでも、好きに取るがよい。我は暗くなる前にここを出たいゆえ、失礼する」
カエサルは背を向けると小走りに山を下り、ミアから見えない位置からは本気で走ってサバナを抜けた。
ホーエンハイムに戻ると、汗を水で流し、パーティ募集の掲示板を確認する。
掲示はいつも数件ある。だが、冒険者等級が合わなかったり、仲が悪そうだったりとか、思うようなパーティは見つからなかった。
デボラに「良いパーティの募集があったら教えてくれ」と頼んでいるが、いつも首を横に振るばかりだった。
(セシリアが、まあまあよい仲間じゃったから、少し他人を厳しく見すぎているのかもしれん。多少とも人間関係が悪そうでも、一度ぐらい募集に乗ってみたほうがいいのかのう)
翌朝、冒険者ギルドで食事を摂っていると、ミアが入ってきた。
前回に見た若い男の冒険者三人の姿は、なかった。ミアは依頼報告カウンターに行き、何か白っぽい品を置く。
ミアがデボラと話すと、デボラは沈痛な表情で小さな袋を渡した。
(何じゃ、あまりいい感じではないの。察するに、依頼の品は手に入ったが、仲間を失ったか?)
ミアがデボラと話し終えると、カエサルの向かいの席に腰掛け、涼しい顔で誘う。
「こんにちは、カエサルさん。いい儲け話があるの、乗らない?」
カエサルはミアの勧誘に気乗りがしなかった。
「ミアにはすでに三人の仲間がおるじゃろう。四人では人手が足りぬ仕事なのか?」
ミアがつんとした顔で打ち明ける。
「前の三人なら、駄目ね。ドンガレオンに喰われちゃった」
仲間もモンスターに食われたと申告したミアだったが、悲しみも憎しみもなかった。
ミアの様子はモンスターと戦っていたら、武器が壊れたくらいにしか思っていないようだった。
慰めの言葉を掛けてみる。
「それは、辛いのう。お悔やみ申し上げる」
ミアは全く気にした様子もなく告げる。
「別に、いいのよ。パーティなんてまた組めばいいわ。それで、どう? 私と組まない? 私と組むと、稼げるわよ。死ななければ、だけど」
カエサルは、ミアとは上手くやっていけないと思ったので、拒絶した。
「我は冒険の旅をする仲間を捜している。でも、それは、ミアではない」
ミアが冷たく微笑む。
「あら、もったいない。私は勇者よ。勇者と一緒に冒険すれば、名誉も各種特典も付いてくるわ。依頼だって良い条件のが受けられるわよ」
「特典や加護は不要。我は剣一本で覇道を進む冒険者よ」
ミアが馬鹿にしたように笑う。
「嫌だ。何それ? 寒いわ。十銅貨冒険芝居の勇者みたい」
「笑いたいなら、どうとでも笑え。我は我が道を行く」
ミアは薄笑いを浮かべて立ち上がる。
「残念だけど、お話にならないわね。後悔しない状況を祈るわ」
「我が心は変わらぬ。後悔もせぬ。そんな暇があったら、前を見て進む」
ミアはその後、デボラと話す。パーティ募集掲示板に新たな募集が貼られた。
募集主は勇者ミアとなっており、鉄等級以上の冒険者が募集されていた。
鉄等級で勇者と組めると、すぐに知れた。
ミアの性格を知らない冒険者は、詳しい条件を聞きに依頼受付カウンターに行く。
「止めておけばいいものを」と思ったカエサルだが、他人の選択なので口は出さなかった。