第十四話 足跡の続く先

文字数 2,297文字

 勇者技を短時間の間に二つ使ったセシリアの消耗は激しく、一時間の休憩を要した。
 休憩中にカエサルはロキュスたちの痕跡を調べる。
 カエサルは作業をしながら、セシリアに尋ねる。
「ロキュスたちは不測の事態に備えて、救難信号を撃つ魔力玉を持っていかなかったのか?」

 セシリアが真面目な顔で教える。
「魔力玉は高価な品なのよ。鉄等級冒険者には過ぎたる品よ。私が持っていたのは、私が勇者だからよ」
「では、ロキュスたちは、困難に遭えば、独力で何とかしなければいけないのか?」

 セシリアは悔しそうに表情を歪める。
「でも、もう、遅いかもしれない。ロキュスたちはドンガレオンに襲われて食べられたのかも。私がいれば、どうにか追い払えたかもしれないのに」
(セシリアがいても、どうにもならんかったじゃろう。だが、これは、教えんほうが親切じゃろうな)

 キャンプの痕跡を調べながら、セシリアに教える。
「ドンガレオンに喰われた――は、ないようじゃ。キャンプ地の跡地に旧いドンガレオンの足跡もなければ、戦闘痕もない。あるのは、ただ、人の足跡のみじゃ」
 セシリアの顔が明るくなる。
「誰かにロキュスたちが連れて行かれた、って指摘したいの?」

「または、助けを求められて従いていったのかもしれん。ロキュスはお人好しだとすると、有り得る展開じゃな。そこで何かトラブルに見舞われた――が、我の考えよ」
 セシリアが思案してから同意した。
「あの、お人好しなら、ありそうなことね」

 セシリアが疲労の抜けていない顔で立ち上がる。
「私なら、大丈夫よ。ロキュスを探しに行きましょう」
 冷静になったセシリアが力強く宣言した。
(無理をしているようだが、止めて聞くような女子(おなご)でもないか)

 セシリアを先頭にサバナを進む。セシリアは地面を険しい目で見ながら歩いていく。
足跡は荒野の側に戻っていった。
「カエサルの推理が、当っているかもしれないわ。足跡は少なくても、六人からなっている」
「ロキュスたちが四人じゃそうだから、あと、二人、多いのう。その二人から助けを求められたか、あるいは力尽くで、連行されたもしれぬのう」

 セシリアが真剣な表情で地面を見ながら答える。
「足跡にばらつきがあるから、連行の可能性はないわ。それに、ロキュスが無抵抗で連れていかれると思えない」
「ならば、頼まれて従いていって、のっぴきならない事態に遭遇したのじゃろう。安易に人に従いていくとは、少し用心が足りんな」

 セシリアがむっとした顔で反論する。
「随分と冷たい言いようね。困っている人を助けて報酬を貰うのが冒険者よ」
「何だかんだ言っても、随分とロキュスを買っているよのう。セシリアに評価されるとはロキュスも(うらや)ましい限りじゃ」

「人柄と技量は一致しないものよ。ロキュスの性格はいいんだけど、剣の腕がね。まあ、勇者の私と比べるのは、間違いかもしれないけど」
(人柄と技量が一致しない点では、セシリアも大差ないと思うがのう)

 歩いて行くと、高さが三十m、幅が百mはある大きな岩山が見えてきた。
 岩山の正面は大きく抉(えぐ)れており、高さ十m、幅二十五m、奥行きが十二mの空間になっていた。
 空間には、棍棒で武装した二人の人間がいた。人間は、赤茶色の迷彩ポンチョを着ていた。
 また、空間には高さ三m、縦六m、横六mの檻が四つあり、一辺が二mほどの木箱も、いくつか並んでいた。檻の中には四人の人間が捕まっていた。

(何じゃ? 人が檻に入れられておる。犯罪者の引渡しや刑罰には見えん)
 カエサルはセシリアを呼び止める。
「待つのじゃ、セシリア、あの岩山の空洞の中に人がいるぞ」
 セシリアには見えないのか、不審がる。
「岩山と空洞は見えるけど、人なんて、見えないわよ」

(そうか、人間の視力では、ここからでは見えんか)
「我には見えるぞ。十人が四人を檻に入れて、監禁しておる」
 セシリアは半信半疑だったが、カエサルの言葉を信じた。
「わかったわ。ここからは岩陰に隠れて慎重に進みましょう」

 相手に見つからないように、隠れながら近づく。
 カエサルの言葉が本当だとわかると、セシリアから緊張が伝わってくる。
「人間が捕まっているわ。おそらく、ロキュスたちだわ。助けないと」
「慌てるでない、セシリア。ここからでは見えないが、木箱の陰に敵が隠れていたら、敵は二人とは限らんぞ」

(我なら、あの程度の野盗なら、千人いても、時間さえあれば倒せる。だが、ここでそれを教えても、信じてはもらえぬじゃろう。それに、こういう時、冒険者なら、どう考えるかを知りたい)
 カエサルは期待したが、セシリアの出した答えは違った。
「カエサルは、ここにいて。私があの二人を倒してロキュスたちを救出するわ。カエサルは、私が失敗した時に冒険者ギルドに戻って、助けを呼びにいく役目よ」

(一番弱い人間が一人で突っ込むとは、最悪の作戦じゃな。セシリアは救援を呼べる魔力玉を持っているのも忘れておるな)
「何か、もっと他にあるじゃろう。いい案が」

 セシリアが緊張した顔で言い渡す。
「いいえ、ロキュスたちが、ほとんど身動きしていないわ。このままじゃ、ロキュスたち死んじゃう。大丈夫。私があの二人を倒してロキュスたちを救出してみせる。だから、あとは、お願い」
 セシリアは剣を抜くと、駆け出していった。
「おい、ちょっと待つのじゃ」
カエサルが止めようとした。だが、セシリアは剣を抜き、声を上げ、突進していった。
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