第二十二話 龍の調査依頼

文字数 2,489文字

 翌日、冒険者ギルドに行くと、リアはいたが、ミアの姿は見当たらなかった。
 リアは元気を取り戻していたので、カエサルは安心した。
「さて、仕事に行くぞ、リアよ。冒険者の酒場でうじうじと悩むより、外に出ていったほうが気も晴れよう」

 リアは明るい顔で同調する
「そうですね。過去をあれこれ気にするより、今を生きましょう」
 依頼掲示板を見に行くと、一風変わった依頼が貼ってあった。
『龍の目撃情報ないしは、痕跡の情報を求む』
「ほう、さすがは辺境にあるサバナの街じゃ。近くに龍が出るんじゃな」

 リアが渋い顔をして告げる。
「サバナでの龍の目撃情報はあります。ですが、龍がこんな人里の近くまで出てくるなんて、おかしいですよ」
(龍は人間の領域では、珍しいのか。魔族領だと、けっこういるぞ。魔族領にある我の家の窓からでも、よく見えたものじゃが)

「よし、今日は龍の痕跡を探して、荒野を歩いてみるか」
 リアが渋い顔のまま意見を告げる。
「いいですけど、その依頼は、難しいと思いますよ」

「どうしてじゃ? 火のないところに煙は立たず。誰かが何かしらの痕跡を見つけたか、目撃したからの依頼じゃろう。嘘かもしれんが、何らかの証拠があって、依頼は出ておるはずじゃ」
 リアの表情は晴れなかった。
「龍は種類が多く、また、特殊な能力を持っていると聞きます。本当なら、見つけるのも一苦労ですし、もし、万一にも出会ったら、危険ですよ」

「リアらしくないのう。まずは、やってみよう。それとも、確実に金になる依頼のほうが、よいのか?」
リアは諦めた顔で折れた。
「わかりました。そこまで言い張るなら、龍の痕跡探しをやりましょう」

 カエサルとリアは冒険者ギルドを出たが、街の南門に近づく独特な気を感じた。
(龍は。もうすぐ傍まで来ておるのか。これは手間が省けた。だが、仕事としては、いささか物足りないのう)

 カエサルとリアは、街から外に続く南門を出た。そこで、カエサルはミアの尾行に気が付いた。
(ミアが隠れて尾行してきておるのう。よいか。危害を加えるわけでもなし、好きにさせておくか)
 南門を出ると、カエサルは一人の男に目が行った。
 男は小太りの四十代。頭頂部が薄く、四角い愛想のよい顔をしていた。男は旅人がよく着る灰色の外套を着ていた。

「さっそく、噂をすれば、じゃ。リア、行くぞ」
 リアは、わけがわからない顔をする。が、カエサルは男に近づいた。
「のう、お主、龍じゃろう。冒険者ギルドで目撃情報や痕跡発見者に謝礼が支払われると張り出しがあった。一緒に来てくれんか?」

「なっ」と男は面食らった。
 男は辺りを見回して、リアとカエサルしか見ていない状況を確認して、小声で話す。
「どうして、角も尻尾もない、わいが龍だとわかったん? どこから見ても人間やん」

 男は龍だと指摘されても否定しなかった。
「なにを馬鹿なことを。それは、見ればわかるじゃろう」
「わかったで。ちょっと向こうで話をしようか?」

 男は門から離れた場所に移動した。
 カエサルはミアに会話が聞こえない位置に移動したのを確認する。
 男は改まった顔で自己紹介した。
「わいの名は、変幻龍のアルネウスや。普段は、魔族領内と人間領域の中間地点に棲んどる」

 リアがアルネウスの言葉を露骨に疑った。
「私は勇者リアです。アルネウスさんは本当に龍なんですか? どこから見ても人間ですよ」
「いやいや、違うじゃろう。人間にしては、纏っている空気が明らかに異質よ」

 アルネウスは複雑な顔をする。
「何や、リアには、わいの正体がわからんか。でも、わい本当に龍やねん。若いけど龍やねん。これ、他の人間には秘密やで」
「我の名はカエサル。それで、アルネウスは何のために、ホーエンハイムの町に来た? 町を襲うための敵情視察か?」

 カエサルの言葉に、リアは表情を硬くする。
 アルネウスは「冗談ではない」と首を横に振った。
「そんな馬鹿な真似はせんよ。人間がサバナを支配下においたり、魔族領内に侵攻して来ない限り、龍からは仕掛けたりはせんよ。それは、町長にも伝えてある」

「龍族と町には、協定があるのか?」
 アルネウスは柔和な顔で「うんうん」と頷く
「あるね、協定。代々の町長は町を守るために守っているね」

「じゃあ、何で来たのじゃ? 一杯、飲みにでも来たか?」
 アルネウスが厳しい顔をする。
「時々、来るけど、今日は違うよ。町に危機が迫っていると知らせに来たんよ。今、魔族の灰の後継者と呼ばれる奴らが、町を襲うために近づいて来とる」
(サーラが教えてくれた連中か。人間との戦を起こして手柄を上げるつもりらしいのう。何とも馬鹿な内容を考えたものよ)

「それで、数は、どれくらいなんじゃ。千か? 万か?」
「数は百名程度や。だけど、油断したらあかん。百名は灰の後継者の精鋭で、精鋭を率いる魔族は、第十二代魔王の流れを汲むマッティアや」
(聞かない名前じゃな。まあ、灰の後継者自体が没落一族ゆえ、わからぬのも無理ではない)

「あい、わかった。では、我らから町に報告しておこう。さすれば、奇襲もない」
 リアは驚いた。
「アルネウスさんの話を本気にするんですか?」

「魔族が攻めてくるなんて、普通は信じないじゃろうな」
 アルネウスは袖に腕を引っ込めて、再び袖から腕を取り出す。アルネウスは掌サイズの紫色の鱗を握っていた。

 アルネウスは、リアに鱗を渡す。
「龍の鱗や。これを持っていき。これで、龍から聞いたといえば、信じるやろう」
「では、リアは龍の鱗を持って冒険者ギルドに行ってくれ。我は情報を得るために、魔族に聞き込みをしてくる」

 リアは不安も露に聞く。
「魔族に聞くって、大丈夫ですか? 魔族が攻めてくるなら、カエサルは敵地に飛び込む事態になるかもしれませんよ」
「大丈夫じゃ。こう見えても、魔族に知り合いがおる。任せておけ」
 不安がるリアを残して、カエサルは魔族の酒場に向かった。
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