第二十九話 審問会が終わって
文字数 2,745文字
審問会が終わると、勇者が出た実績を記念して、祝賀会が行われる。
祝賀会は、冒険者ギルドの主催で町のホールで行われた。祝賀会には町の名士や勇者の関係者が出席する。
カエサルは給仕係のアルバイトとして祝賀会に出ていた。食事は立食ビュッフェ形式であるが、料理の味が良いせいか、料理は次から次へとなくなる。
祝賀会の中心人物は、四人の勇者候補生とテレシアであり、五人を中心に輪が出きていた。
(料理や飲み物が次々なくなるわい、いくら補充しても足りん)
カエサルが飲み物を補充していると、紫のドレスに身を包んだサーラがやってくる。
サーラは澄ました顔で訊いてきた。
「どうしました? ぼっちゃまは、勇者審問を受けなかったのですか? それとも、落選ですか?」
「肩書きなぞ不要。勇者の力も不要じゃ」
サーラは冷めた顔で語る。
「でしょうね。ぼっちゃまは望めば魔王の地位も手に入る。また、今、持っている力より弱い力を授かっても無意味。勇者は、まっこと魅力がない資格ですからね」
「そういうサーラは、何でこんな祝賀会に出てきておる?」
「付き合いでパーティ券を購入したのと、将来の勇者との顔繋 ぎです。紛争の未然防止も仕事なのですよ」
「おい、料理ができたぞ」と厨房から声がするので、料理を厨房に取りに行く。
ガシャンと皿が割れる音がする。
何だ? とホールに戻ると、一人の酔った黒髪の冒険者が、若い金髪の勇者候補生に絡んでいた。
「何だ! 何で、俺でなくて、コンラートなんだ! 俺だって勇者になりたかった」
コンラートと呼ばれた勇者候補生は、すぐに冒険者の男を宥める。
「よさないか、ロンバウト。こんな席で」
ロンバウトに暴れ出しそうな気配が出ていた。すぐに仲間の冒険者と思わしき女性冒険者が宥(なだ)めて、ロンバウトを外に連れ出そうとする。
「よしなさい、ロンバウト。ごめん、コンラート、ちょっと、ロンバウトの酔いを覚ましてくる」
ロンバウトは、そのまま女性冒険者に連れられて退出した。
残ったコンラートは他の客たちに詫びる。
「仲間が酔って乱暴な口を利いて、すいませんでした」
サーラが、さりげなく声を掛ける。
「仕方ないですわ。誰しも勇者には、憧れるもの。目の前で成功した人間がいれば、なぜ俺が、となりますわ」
コンラートは恐縮して謝る。
「そういって許していただけると、嬉しいです」
テレシアも微笑んで優しい言葉を掛けた。
「それに、ロンバウトさんの勇者への道は、完全に閉ざされたわけではありません。ロンバウトさんにやる気があるのなら、勇者育成機関に行って試験を受ければよい話です」
トラブルらしいトラブルは、その程度で、祝賀会が幕を閉じた。
祝賀会の翌日に冒険者の酒場の募集掲示板に人員募集の張り紙が三件、張られていた。三件は、勇者候補生が所属していたパーティだった。
(勇者候補生の四人は勇者育成機関に行くから、パーティを抜けるようじゃの。勇者候補生の抜けた穴を埋める募集だから、ハードルも高いか)
カエサルは抜けた勇者候補生の穴を埋める自信はあった。だが、募集等級は真珠以上だったので、応募できなかった。
(うむ、カイエンもまだ戻らぬし、サスキアも勇者育成機関に行くようだから、また独りよのう。何か考えねば)
翌日になる。カイエンは、まだ帰ってこない。だが、冒険者ギルドでは動きがあった。
冒険者の噂話だった。渋い顔の冒険者たちが語る。
「おい、聞いたか? 勇者候補生のいたパーティのロンバウトが、死体で発見されたそうだぜ」
「ロンバウトって銀等級だろう。それが死体でって、まずくないか」
(冒険に危険は付き物じゃ。また、銀等級だからといって、死なないわけでもない。だが、ちと気になるな)
カエサルが不審に思っていると、曇った顔のサスキアがやって来る。
「さっき、デボラさんから頼まれたんだけど、昨日に到着予定の行商人が町に到着しないんだって。また、今朝には届くはずのベルハイムからの荷物が届かないそうよ」
「なるほど。それで、様子を見に行ってほしいと頼まれたわけか。どれ、行ってみるか。どうせ、我も暇を持て余したていたところよ」
カエサルとサスキアは装備を調えて町を出る。
町から二時間、行った場所で、壊れた荷馬車と四人の冒険者の死体を発見した。死体は強力な力でねじ切られ、食い荒らされた跡があった。
サスキアは冷静な顔で、死体と荷馬車を調べる。
「これは、何か大型の魔獣による仕業ね」
カエサルは認識票を発見した。認識票には『カイエン』の名が彫られていた。
(残念。町に戻ってきた時に無理にでも、ベルハイムに戻って合流していたら、助けられたかもしれないのう。これも運のなさか)
サスキアは壊れた荷物を調べる。
「使える物は、ほとんどないわ。魔獣に食われたのね。残った食べ物は、コヨーテにやられている。さて、どうしたものかなあ? 見えない商人を探すべきかしら? 一度、ホーエンハイムに戻るべきかしら? 」
付近に人の発する気がないので、商人が近くにいないと知っていた。なので、すでに周りを捜索しても無駄とわかっていた。
「ここは一度、帰還して街道に恐ろしい化け物が出ることを教えるべきじゃな。ここが危ないなら、町から出る商人にも危険が及ぶ」
サスキアが思案する。
「わかったわ。でも、近くに商人がいたら困るから、付近だけでも捜索しましょう」
(これで魔獣と遭えたなら、めっけものじゃな。さっさと退治して、街道の安全を確保じゃ)
小一時間ひたすら捜索するが、魔獣は現れなかった。
サスキアとカエサルが冒険者ギルドに帰った。
心配した顔のデボラがやって来る。
「よかったわ、カエサルくん。サスキアさん、無事だったのね」
「何かあったのか、話してみよ」
デボラが暗い顔で教えてくれた。
「カエサルくんたちが出た後にパーティで出かけた冒険者が独りで帰ってきたの。何でも夜に黒い丸太のようなモンスターに襲われて、一人を残して亡くなったんだって」
「何と、他にも犠牲者を出したパーティがあるのか?」
「どういうこと?」とデボラが青い顔で訊くので、カイエンの認識票を渡した。
「商人は行方不明で、壊れた荷馬車があった。荷馬車の周りには、四人の冒険者の死体があった」
デボラは沈んだ顔をする。
「これは、魔獣は一頭ではないわね。すぐに警告を出さないと」
デボラから報酬を受け取る。
(荒野には危険生物は多いが、サバナほどではない。これは町に、何か危機が迫っているかもしれないのう)
祝賀会は、冒険者ギルドの主催で町のホールで行われた。祝賀会には町の名士や勇者の関係者が出席する。
カエサルは給仕係のアルバイトとして祝賀会に出ていた。食事は立食ビュッフェ形式であるが、料理の味が良いせいか、料理は次から次へとなくなる。
祝賀会の中心人物は、四人の勇者候補生とテレシアであり、五人を中心に輪が出きていた。
(料理や飲み物が次々なくなるわい、いくら補充しても足りん)
カエサルが飲み物を補充していると、紫のドレスに身を包んだサーラがやってくる。
サーラは澄ました顔で訊いてきた。
「どうしました? ぼっちゃまは、勇者審問を受けなかったのですか? それとも、落選ですか?」
「肩書きなぞ不要。勇者の力も不要じゃ」
サーラは冷めた顔で語る。
「でしょうね。ぼっちゃまは望めば魔王の地位も手に入る。また、今、持っている力より弱い力を授かっても無意味。勇者は、まっこと魅力がない資格ですからね」
「そういうサーラは、何でこんな祝賀会に出てきておる?」
「付き合いでパーティ券を購入したのと、将来の勇者との
「おい、料理ができたぞ」と厨房から声がするので、料理を厨房に取りに行く。
ガシャンと皿が割れる音がする。
何だ? とホールに戻ると、一人の酔った黒髪の冒険者が、若い金髪の勇者候補生に絡んでいた。
「何だ! 何で、俺でなくて、コンラートなんだ! 俺だって勇者になりたかった」
コンラートと呼ばれた勇者候補生は、すぐに冒険者の男を宥める。
「よさないか、ロンバウト。こんな席で」
ロンバウトに暴れ出しそうな気配が出ていた。すぐに仲間の冒険者と思わしき女性冒険者が宥(なだ)めて、ロンバウトを外に連れ出そうとする。
「よしなさい、ロンバウト。ごめん、コンラート、ちょっと、ロンバウトの酔いを覚ましてくる」
ロンバウトは、そのまま女性冒険者に連れられて退出した。
残ったコンラートは他の客たちに詫びる。
「仲間が酔って乱暴な口を利いて、すいませんでした」
サーラが、さりげなく声を掛ける。
「仕方ないですわ。誰しも勇者には、憧れるもの。目の前で成功した人間がいれば、なぜ俺が、となりますわ」
コンラートは恐縮して謝る。
「そういって許していただけると、嬉しいです」
テレシアも微笑んで優しい言葉を掛けた。
「それに、ロンバウトさんの勇者への道は、完全に閉ざされたわけではありません。ロンバウトさんにやる気があるのなら、勇者育成機関に行って試験を受ければよい話です」
トラブルらしいトラブルは、その程度で、祝賀会が幕を閉じた。
祝賀会の翌日に冒険者の酒場の募集掲示板に人員募集の張り紙が三件、張られていた。三件は、勇者候補生が所属していたパーティだった。
(勇者候補生の四人は勇者育成機関に行くから、パーティを抜けるようじゃの。勇者候補生の抜けた穴を埋める募集だから、ハードルも高いか)
カエサルは抜けた勇者候補生の穴を埋める自信はあった。だが、募集等級は真珠以上だったので、応募できなかった。
(うむ、カイエンもまだ戻らぬし、サスキアも勇者育成機関に行くようだから、また独りよのう。何か考えねば)
翌日になる。カイエンは、まだ帰ってこない。だが、冒険者ギルドでは動きがあった。
冒険者の噂話だった。渋い顔の冒険者たちが語る。
「おい、聞いたか? 勇者候補生のいたパーティのロンバウトが、死体で発見されたそうだぜ」
「ロンバウトって銀等級だろう。それが死体でって、まずくないか」
(冒険に危険は付き物じゃ。また、銀等級だからといって、死なないわけでもない。だが、ちと気になるな)
カエサルが不審に思っていると、曇った顔のサスキアがやって来る。
「さっき、デボラさんから頼まれたんだけど、昨日に到着予定の行商人が町に到着しないんだって。また、今朝には届くはずのベルハイムからの荷物が届かないそうよ」
「なるほど。それで、様子を見に行ってほしいと頼まれたわけか。どれ、行ってみるか。どうせ、我も暇を持て余したていたところよ」
カエサルとサスキアは装備を調えて町を出る。
町から二時間、行った場所で、壊れた荷馬車と四人の冒険者の死体を発見した。死体は強力な力でねじ切られ、食い荒らされた跡があった。
サスキアは冷静な顔で、死体と荷馬車を調べる。
「これは、何か大型の魔獣による仕業ね」
カエサルは認識票を発見した。認識票には『カイエン』の名が彫られていた。
(残念。町に戻ってきた時に無理にでも、ベルハイムに戻って合流していたら、助けられたかもしれないのう。これも運のなさか)
サスキアは壊れた荷物を調べる。
「使える物は、ほとんどないわ。魔獣に食われたのね。残った食べ物は、コヨーテにやられている。さて、どうしたものかなあ? 見えない商人を探すべきかしら? 一度、ホーエンハイムに戻るべきかしら? 」
付近に人の発する気がないので、商人が近くにいないと知っていた。なので、すでに周りを捜索しても無駄とわかっていた。
「ここは一度、帰還して街道に恐ろしい化け物が出ることを教えるべきじゃな。ここが危ないなら、町から出る商人にも危険が及ぶ」
サスキアが思案する。
「わかったわ。でも、近くに商人がいたら困るから、付近だけでも捜索しましょう」
(これで魔獣と遭えたなら、めっけものじゃな。さっさと退治して、街道の安全を確保じゃ)
小一時間ひたすら捜索するが、魔獣は現れなかった。
サスキアとカエサルが冒険者ギルドに帰った。
心配した顔のデボラがやって来る。
「よかったわ、カエサルくん。サスキアさん、無事だったのね」
「何かあったのか、話してみよ」
デボラが暗い顔で教えてくれた。
「カエサルくんたちが出た後にパーティで出かけた冒険者が独りで帰ってきたの。何でも夜に黒い丸太のようなモンスターに襲われて、一人を残して亡くなったんだって」
「何と、他にも犠牲者を出したパーティがあるのか?」
「どういうこと?」とデボラが青い顔で訊くので、カイエンの認識票を渡した。
「商人は行方不明で、壊れた荷馬車があった。荷馬車の周りには、四人の冒険者の死体があった」
デボラは沈んだ顔をする。
「これは、魔獣は一頭ではないわね。すぐに警告を出さないと」
デボラから報酬を受け取る。
(荒野には危険生物は多いが、サバナほどではない。これは町に、何か危機が迫っているかもしれないのう)