第二十五話 暗躍する白いローブの男

文字数 3,076文字

 カエサルが暗い気分で街まで帰ろうとすると、四㎞離れた先で五つの気が、ふっと消えた。
 普通なら放っておく。だが、近くにミアの気配があったので、気になった。
(何じゃ? ちと気になる反応よのう。行ってみるか? 急いで帰る理由もなし)
 カエサルはサバナを走った。二十秒で目的地に到達した。

 ミアの側には仮面で顔を隠した、白いローブの人物が立っていた。ローブの人物の足元には、逃げて行ったはずのヨーストと四人の冒険者が倒れていた。
 ローブの人物は、ヨーストの死体から光る何かを取り上げていた。
(これは、また奇妙な場面に出くわしたものよのう)

 ミアが強張った顔で告げる。
「この場面を見られたからには生かしておけないわ。死んで」
 ミアが杖を向ける。詠唱(えいしょう)なしで、青白い光を放つ雷が、カエサルを襲う。

 カエサルにとっては、痛くも痒くもない。ちょいと魔力を、逆に杖に流してやる。
 ボン、と音がしてミアの杖が弾ける。
「キャア」と声を上げて、ミアが尻餅(しりもち)()いた。

「大丈夫ですか?」とローブの人物がミアに手を差し出す。
 声は若い男の声だった。ミアがローブの男の手を取ろうとする。
 だが、男は手をミアの胸に手を当てる。
「ガハッ」とミアが苦しげに(うめ)いて倒れた。

 ローブの男はヨーストから取り出したのと同じ光をミアから奪った。
(あの男は何をした。まるでわからん)
 光は男の手の中に消えた。
 ミアの気に注意を向けると、ミアの気は小さいながらも残っていた。

(ミアは生きておるようじゃのう。それにしても、こやつ、何者じゃ? まあ、よいわ、力尽くで吐かせれば、問題なし)
「お主は、ここで何をしていた。素直に話すがよい。そのほうが、お互い気分がよかろう」

「貴方も勇者ですか?」と白いローブの男が冷静な口調で告げる。
「違うな。勇者ではない。剣一本を持ち、覇道(はどう)を進む冒険者よ」

「ならば用はありません」とローブの男は掌を向ける。
 強力な炎が掌から噴き出した。
 カエサルは剣を抜いて軽く振った。剣が巻き起こす風圧で、炎は切断される。
 巻き起こる風は男を真っ二つにした。だが、白いローブの中身はなかった。
 ただ、サバナに白いローブと仮面のみが残されていた。

「逃げよったか。本当に、この世はつまらん奴ばかりじゃ」
 ヨーストと四人の冒険者は死んでいたので、識別証を回収する。
 ヨースト以外の四人の冒険者も勇者の証を持っていた。なので、五人分の勇者の証も回収しておく。
(ふむ。犠牲者は皆、勇者だった状況が気になる。煙が発生した時、あの時に、ここに連れてこられたか? とすると、ミアは白いローブの男の仲間だったが切り捨てられたか?)

 ミアは生きていたので、おぶって町まで帰った。
 街では魔族が攻めてくると噂され、騒然となっていた。
 冒険者ギルドに行くと、冒険者ギルドは()いていた。

 リアは冒険者ギルドに残っていた。リアは気絶したミアの姿を見ると青くなる。
「まさか、ミアは逃げ遅れて――」
「うむ、まあ、色々とあった。詳しくはミアから聞いてくれ。それより、冒険者ギルドはいつにも増して空いておるのう。皆は逃げたか?」

 リアが暗い顔で教えてくれた。
「町に前からいる冒険者は、町の防衛に加わるために志願しました。ヨーストさんが連れてきていた冒険者は、街から逃げ出しました」
(ヨーストが帰ってこない状況では、ヨーストが逃げたと考えるのが自然。大将が逃げ出したのなら、連れてきた冒険者が総崩れになってもいたしかたなしじゃ)

「なるほど、それで空いておるのか。では、ミアを休ませてやってくれ。魔族の襲撃は心配しなくていいぞ。襲撃はなくなった」
 リアが驚いた顔で尋ねる。
「襲撃がなくなったって、誰がマッティアを倒したんですか?」

「煙の後に魔族会議の遣いが来て、和解の使者を買って出た。全ては和睦となったぞ」
 リアは完全には、納得し難い顔をしていた。
「それが本当なら、ありがたいです。でも、何で今になって魔族会議が動いたんでしょう?」

「それは、わからん。そういうわけじゃ。リアよ、養生に専念するがよい」
 リアと別れると町長舎に行き、町長室の窓を叩く。
 不安な顔のレンブラントが窓を開けてくれた。
「良い知らせを持って来たぞ。魔族の襲撃はなくなった。詳しくはサーラに聞け」

 レンブラントは驚いた顔をしてから、安堵する。
「本当に襲撃はないんですね? よかった。街は救われた」
「ちと、訊きたい。ヨーストはレンブラントの依頼で助けに来た、と冒険者ギルドで叫んでいた。レンブラントは、どこから、魔族襲来の話を聞いた?」

 レンブラントが苦い顔で説明する。
「順序が、あべこべです。ヨーストは一人で町長室にやって来ました。ヨーストは町から魔族を追い出すように、陳情に来たんですよ。ヨーストは魔族を嫌っていました」
「ほう、そんな陳情は知らなんだ。それで、レンブラントは何と答えた?」

 レンブラントは困った顔で、忌々(いまいま)しそうに発言する。
「街の経済を考えれば、できない――と、きっぱり答えました。すると、ヨーストが次に来た時には百人の仲間を連れていました。それで、魔族が町を攻めてくると騒ぎ出したんです」
「それは、大迷惑であったであろう」

 レンブラントは険しい顔で身震いして語る。
「迷惑なんてものじゃないですよ。ヨーストはそれで、町を守るための報酬も要求してきたんです。もう、半分は恐喝ですよ」
「百人分の報酬か。前金だけでもかなりの額じゃろう。いくら払った?」

 レンブラントはそこで不思議がる。
「それが、奇妙な展開になりました。ヨーストと入れ違いで、サーラさんが現れました」
「サーラがのう。して、サーラはなんと言ってきた」

「資金を出すから、ヨーストを魔族退治に向かわせるように進言してきました」
(魔族嫌いのヨーストと、議会の手を離れたマッティア。二つをぶつけて、潰し合わせようとしたのか。我が出て行くから、最後に残ったほうを我の手を使って消す算段だったか)

 レンブラントと話した後に、魔族酒場に会いに行き、サーラに会う。
「サーラよ。お主も中々の策士よのう。最初から我を使ってヨーストかマッティアを消すつもりであったか?」
 サーラは目をぱちくりさせて小首を傾げる。
「何のことでしょうか?」

「怒らぬから、惚(とぼ)けるではない、レンブラントに金を渡して、ヨーストをマッティアにぶつけたであろう」
 サーラは困惑した顔で否定した。
「すいません。本当に何のことか知りません」

「何じゃと? では、何で、レンブラントは、あんな嘘を吐いたのじゃ」
(まさか、白いローブの男がサーラに化けておったのか? とすると、目的は勇者を集めて、集団から分離するのが目的だったか? 現状では、勇者が失踪してもおかしくない状態にもなっている)

「サーラよ。勇者の力を集める謎の白いローブの男が暗躍しておった。何か知らぬか?」
 サーラの表情が曇る。
「おおやけには秘密になっています。ですが、白いローブを着た不審な集団が龍滅公のところに出入りし始めた、との噂があります」

「あの御老体がのう。放っておくと、魔族会議を巻き込む問題に発展するかもしれん。注意せよ」
「畏まりました」とサーラは真面目な顔で頭を下げた。
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