第二十六話 勇者リアとミアの結末

文字数 2,327文字

 リアは三日ほど、冒険者ギルドに顔を出さなかった。
(これは、ミアとの間に何かあったのう。いい展開に発展する経過を願うが、そうはいかんじゃろうな。ただ、知らぬ仲ゆえしばらく待つか)

 四日目に、冒険者ギルドにリアが顔を出した。リアの表情は暗かった。
 リアがカエサルを密談スペースに誘う。
「これは何か、良くない話が来る」との予感があった。

 席に着くと、リアが沈痛な表情で口を開く。
「ミアの具合が、よくありません。それに、ミアは視力を、ほとんど失いました」
(視力の消失か。命に別状はないが、ミアの冒険者生命は絶たれたも同然か)
「目がほとんど見えぬか。それは、思ったより重い症状よのう」

 リアは決心した顔で打ち明ける。
「それだけ、では、ありません。ミアは私に働いてきた悪事を、教えてくれました」
「我を殺そうとした話か? なら、別に気にするな。我は罪に問う気はなし。実害も一切なかったのだからな」

 リアは暗い顔で白状した。
「違います。ミアは魔道士ケインズの手先となり、勇者狩りをしていました。ケインズは勇者の素質がありそうな冒険者を捜して、勇者の力を奪っています」
(やはり、勇者の力を集めていたか。先日、話題になっていた消えた冒険者。ミアとパーティを組んで死亡したとなっていた冒険者も、実はケインズの犠牲になっておったのか)

「勇者の力とは簡単に奪えるのか? ことは、そう簡単にできそうも思えんが」
 リアは困った顔で、淡々と語る。
「私の知る限りでは、勇者の力は奪えるものではありません。そのような話を聞いた覚えも、ありません」

(当然であろうな。簡単に勇者の力を奪えれば、人間の性格からして、勇者の力が売り買いされるであろう。じゃが、勇者の力なぞ、売っているのを見た覚えはなし)
 確認のために訊いておく。
「ヨーストは勇者の力を奪われて死に、ミアは視力を失ったのじゃな? ケインズのやり方で、勇者が力を失う時は死ぬ。ないしは健康に重篤(じゅうとく)障碍(しょうがい)(きた)すか」

 リアは悲しい顔で淡々と告げる。
「正確には、ミアは勇者ではありませんでした。ミアは、ケインズによって勇者の力を与えられた人工の偽勇者でした」
(勇者に天然とか人工とか、あるのか。まあ、どちらでもよいか。我にあまり関係ない話よのう。それより気になるのは、ミアとケインズの関係よ)

「ミアは、ケインズの手下であったか。それならば色々と説明がつく話もある」
 リアが苦しげな顔で弁解する
「なぜ、ケインズの手下になったかについたかも、話してくれました」

「我も聞きたいものよ。話してくれるか」
「ミアは、私を救うために、ケインズと取引したそうです」

 何となく、話が見えてきた。
「以前に話してくれた、ミアとリアを残してパーティが全滅した話があったのう」
「あの時に、パーティは全滅していたそうです。ですが、ミアがケインズに協力する条件で、私だけを助けてくれる約束を結んだそうです」

「ミアがリアを避けていた態度は、真相を気付かれるのを怖れたためか。気を使っておったのだろう」
リアは苦しげな表情のまま(うつむ)く。
「そうです。ミアが私のために辛い思いをしていたなんて、知らなかった」

「ケインズの目的について、ミアは何か話していたか?」
 リアが冴えない顔で答える。
「ただ、全ては世界を救うためだと、ことあるごとに吹き込んでいたそうです。ケインズの正体は不明です」

(ミアとリアとの事情はわかった。ここまでは、我は関係なし。だが、ここで話は終わらんのだろうな)
「それで、話はそれだけか?」

 リアが申し訳ない顔で詫びる。
「いいえ、あと一つ。パーティを解散させてください」
(来ると思った話題が、やはり来たか。解散は、どうにかならんのかなあ)

 避けられない解散だと思ったが、動機を確認する。
「ミアの介護のためか?」
 リアは決意も強く、心境を語る。
「真相を全て知った今となっては、ミアを捨てて置けません。それに、私は勇者の力も返納しようと思います」

「ケインズの目的は勇者の力。ならば、勇者の力がなければ、手を出す価値もなしと判断するか。賢い選択かもしれんが、冒険者も辞めるのか?」
 リアは寂しそうな表情で、やんわりと伝える
「勇者でなくなれば、各種特典はなくなります。そうなれば、カエサルにとっても組んでいても、あまり旨みのある存在になりません」

「これは心外。我は別に、勇者だからリアと組んだのではない。特典が欲しかったわけでもない。リアが気に入ったから組んでいたにすぎぬ。リアさえよければパーティは続けたい」
 リアは感謝したが、それでも、きっぱりと気持ちを伝えてきた。
「ありがとうございます。でも、やはり、今後のことも考えると、パーティは組めません」

(決意は固いか。ミアを見捨てろとは命じられんし。ミアを一人で誰かに任せて冒険に行くような女子(おなご)でもなし。真とに惜しい展開よのう)

 未練はあったが、すぐに捨てた。
「冒険だけが人生ではない。大切な人の傍にいるのも、人生よ。あい、わかった。パーティ解散の件は、受け入れよう」
 リアは最後に、ちょっぴり微笑んだ。
「最後にカエサルさんと組めて本当によかった」

(やれやれ、これで勇者に逃げられる状況は、二回目よのう。リアは素直な娘だったがゆえに惜しい気もする。じゃが、身内の介護と冒険は、両立できまい)
 リアが一人で密談部屋の外に出ていったので、愚痴る。
「我はまた独りか、次こそは、長く組める相棒を見つけたいものぞ」
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