第十八話 運命の勇者リア
文字数 3,173文字
翌日、冒険者ギルドに行くと、明るい顔のデボラから呼び止められた。
「カエサルくんを仲間にしたいと仰る、冒険者さんを見つけました。勇者のリアさんです」
「何じゃ、また、勇者か? 勇者のパーティとは、人の異動が激しいのか?」
デボラが穏やかな表情で、やんわりと発言する。
「勇者と組みたい方は多いので、本来なら、そうそう声が懸るものではありません」
「そうなのか? 有難い話なのじゃな?」
「今回は、リアさんの要望に合致する人材を捜したら、カエサルくんがぴったりなのですが、どうでしょうか?」
「いいじゃろう。勇者リアに会ってみよう」
デボラに案内されて密談部屋の扉を開けると、一人の女性がいた。
女性の身長は百六十㎝、がっしりとした体型をしていた。肌は薄いオレンジ色で髪の毛は短いピンク色。顔は愛嬌のある卵型で、意志の強そうな太い眉と口が印象的だった。服装は厚手の服を着て、腰から鎚を提げていた。
女性は愛想の良い顔で席を立って、元気に挨拶する。
「運命の勇者リアです。貴方がカエサルさんですね。よろしくお願いします」
「さんは不要じゃ。リアよ、一つ聞きたい。なぜ、我を仲間に誘った?」
リアは屈託のない笑顔で、はっきりと告げた。
「ある人からカエサルの育成を頼まれました」
「何じゃ、ストレートに物を言うの。でも、そういう、裏表のない人間のほうが付き合いやすいのかもしれんのう。それで、得意な勇者技は、何じゃ?」
リアは明るい顔で、力瘤を作って答える。
「私の勇者技は『勇者の怪力』です。普通の人間には不可能な力を出せます」
(随分と力に自信がある女子 よのう。実際、下手な男の力自慢より強いのかもしれん)
「もう一つ、聞かせてくれ。リアの他にパーティ・メンバーが見当たらないが、なぜじゃ」
リアがしょんぼりした顔で俯 く。
「メンバーは全て引き抜かれました。それで、今度は簡単には引き抜かれない人を捜していたら、デボラさんに、カエサルはどうかと推薦されたのです」
「我はリアを知らないゆえ、どこまでも一緒に従いて行く、とは約束はできん。じゃが、簡単によい条件を示されてほいほい従いていく人間ではないことは保証しよう」
「わかりました。では、共に冒険者として歩みましょう」
リアと一緒にパーティを結成して冒険者ギルド内に戻ると、一人のがたいの良い男が寄ってくる。
男は年齢が四十くらいで髭を生やして、商人が良く着るようなクリーム色のワンピースの服を着ていた。
「なあ、あんたら、冒険者だろう? ちょっと手を貸してくれ。町の近くまで馬車で来たんだが、馬車の車輪が泥濘 に取られて、馬車が立ち往生しているんだ」
リアは元気よく承諾した。
「それはお困りまでしょう、いいですよ。助けてあげます」
男はいたく喜んだ。
「ありがたい。俺の名はブレスト。俺は荷物を盗まれるのが心配だから、先に行く。馬車は街の西門から出て、五百mくらいの位置にあるんだ」
ブレストはそれだけ教えると、冒険者ギルドから出て行った。
カエサルはリアとブレストの会話を聞いていたが、不審に思った。
冒険者ギルドから出て、道すがらリアに尋ねる。
「のう、ブレストの態度は、ちと、妙よのう」
「どこがですか? 私には普通の態度に見えましたよ」
「門の近くで馬車が立ち往生しているなら、冒険者ギルドまで来なくても、門のところにある厩舎 に助けを求めてもいいようなものよ」
リアは呑気な顔で意見を述べる。
「厩舎の人間が忙しかったのでしょう」
「それに、馬車を動かすのに人が必要なら、二人しかいない我らに助けを求めるか? 六人パーティに助けを求めたほうがよいと思わぬか?」
リアはまるで疑った様子がなかった。
「きっと、私たちが二人パーティだとは思わなかったんですよ。でも、大丈夫ですよ。私の勇者技があれば、荷馬車の片側を持ち上げて泥濘から脱出させられますから」
カエサルの疑念は尽きない。
「依頼受け付けカウンターを通さず、見つけたように話し掛けてきたのも変よのう」
「きっと慌てていたんでしょう」
(リアの性格はいいのかもしらんが、疑うことを知らなさすぎじゃ。世間知らずと言われる我ですら、疑わしい点が、これほどある。また、面倒な勇者と組む事態になったかもしれんぞ)
西門は商業地区へと続く門があるので、明るいうちは人通がまばらにある。ブレストの馬車は道から外れて場所にあり、車輪の一つが泥濘に嵌(はま)っていた。
ブレストの馬車の周りには四人の人間がいた。四人は旅の行商人がよく着る厚手の服を着て、顔に布を巻いていたが、腰には剣を佩いていた。
(ブレストの仲間にしては殺気が漏れているのが気に懸かる。それに、四人いれば人の手を借りずとも、どうにか、できるはず)
リアが腕捲 りをして馬車の端を持ち上げようとしたので、止める。
「待つのじゃ、リア。衛兵のところに行って、棒を借りてきてくれ。梃子の原理で馬車を動かそう」
リアが元気よく宣言する。
「そんな面倒なことをしなくても、私の勇者技なら簡単に持ち上げられますよ」
「いいから、借りてくるのじゃ。できないなら、パーティを解散する」
リアは不満がある顔をしたが、西門まで走っていく。
カエサルはブレストに尋ねる。
「のう、ブレスト、積荷は何じゃ」
ブレスとは素っ気なく答える。
「ただの酒ですよ」
リアが長い棒を戻ってきたので、棒を受けとる。
カエサルは荷馬車から十m離れたところから、棒を積荷に向かって投げた。
棒が樽に当る。バン! と音がして、積荷が爆発して炎を撒き散らす。
「ほう、よく燃える酒じゃのう。迂闊 に荷馬車に触って傾けると、爆発して大火傷を負うところじゃのう」
ブレストの顔が険しくなり、周りにいた四人も剣を抜く。
リアが真面目な顔で悔しがる。
「許せない。私たちを騙したのですね」
リアの体が光に覆われ、筋肉が膨張する。
ブレスストは馬に括りつけていた小ぶりのワンドを取り出す。ブレストが邪悪な笑みを浮かべる。
「ばれたら仕方ない。だが、勇者リアよ、お前はここで、終わりだ。お前の勇者技は知っている。お前の勇者技は、この脱力のワンドで無効化させてもらうぞ」
ブレストがワンドを振ると、紫色の光がリアとカエサルを覆う。
「吸収できる力の量を超えました」とワンドから声がする。ワンドはボンと破裂する。
ブレストが歯噛みして悔しがる。
「何だと、勇者リアの力は、そこまで強力なのか! ケインズの奴め、しょうもない物を渡しよって」
(違うな。我の力を吸収しようとしたのが、原因よのう。所詮は玩具の域を出ない魔道具じゃったか)
リアがブレストに挑み懸かろうとしたが、四人に行く手を阻まれる。
「あばよ、小娘」とブレストは自信たっぷりに叫んで馬で走り出した。
リアが一撃で一人、また一人と敵を倒す。
(リアは大丈夫そうよのう。なら我は、黒幕を捕まえるか)
カエサルは石を拾うと、馬で走り去るブレスト目掛けて投げつけた。
ブレストとの距離は、二百m以上は離れていた。だが、カエサルがちょびっと本気を出して投げた石は、ものすごい速さでブレストの背中に命中した。
ブレストは、あまりの痛さに落馬して、痛みで動けなくなっていた。
カエサルは走っていって、動けないブレストの背後をとる。
ブレストの首を軽く絞めて気絶させた。
振り返ると、リアが敵を担いで衛兵のところに連れていくところだった。
カエサルもブレストを担いで衛兵に突き出した。
「カエサルくんを仲間にしたいと仰る、冒険者さんを見つけました。勇者のリアさんです」
「何じゃ、また、勇者か? 勇者のパーティとは、人の異動が激しいのか?」
デボラが穏やかな表情で、やんわりと発言する。
「勇者と組みたい方は多いので、本来なら、そうそう声が懸るものではありません」
「そうなのか? 有難い話なのじゃな?」
「今回は、リアさんの要望に合致する人材を捜したら、カエサルくんがぴったりなのですが、どうでしょうか?」
「いいじゃろう。勇者リアに会ってみよう」
デボラに案内されて密談部屋の扉を開けると、一人の女性がいた。
女性の身長は百六十㎝、がっしりとした体型をしていた。肌は薄いオレンジ色で髪の毛は短いピンク色。顔は愛嬌のある卵型で、意志の強そうな太い眉と口が印象的だった。服装は厚手の服を着て、腰から鎚を提げていた。
女性は愛想の良い顔で席を立って、元気に挨拶する。
「運命の勇者リアです。貴方がカエサルさんですね。よろしくお願いします」
「さんは不要じゃ。リアよ、一つ聞きたい。なぜ、我を仲間に誘った?」
リアは屈託のない笑顔で、はっきりと告げた。
「ある人からカエサルの育成を頼まれました」
「何じゃ、ストレートに物を言うの。でも、そういう、裏表のない人間のほうが付き合いやすいのかもしれんのう。それで、得意な勇者技は、何じゃ?」
リアは明るい顔で、力瘤を作って答える。
「私の勇者技は『勇者の怪力』です。普通の人間には不可能な力を出せます」
(随分と力に自信がある
「もう一つ、聞かせてくれ。リアの他にパーティ・メンバーが見当たらないが、なぜじゃ」
リアがしょんぼりした顔で
「メンバーは全て引き抜かれました。それで、今度は簡単には引き抜かれない人を捜していたら、デボラさんに、カエサルはどうかと推薦されたのです」
「我はリアを知らないゆえ、どこまでも一緒に従いて行く、とは約束はできん。じゃが、簡単によい条件を示されてほいほい従いていく人間ではないことは保証しよう」
「わかりました。では、共に冒険者として歩みましょう」
リアと一緒にパーティを結成して冒険者ギルド内に戻ると、一人のがたいの良い男が寄ってくる。
男は年齢が四十くらいで髭を生やして、商人が良く着るようなクリーム色のワンピースの服を着ていた。
「なあ、あんたら、冒険者だろう? ちょっと手を貸してくれ。町の近くまで馬車で来たんだが、馬車の車輪が
リアは元気よく承諾した。
「それはお困りまでしょう、いいですよ。助けてあげます」
男はいたく喜んだ。
「ありがたい。俺の名はブレスト。俺は荷物を盗まれるのが心配だから、先に行く。馬車は街の西門から出て、五百mくらいの位置にあるんだ」
ブレストはそれだけ教えると、冒険者ギルドから出て行った。
カエサルはリアとブレストの会話を聞いていたが、不審に思った。
冒険者ギルドから出て、道すがらリアに尋ねる。
「のう、ブレストの態度は、ちと、妙よのう」
「どこがですか? 私には普通の態度に見えましたよ」
「門の近くで馬車が立ち往生しているなら、冒険者ギルドまで来なくても、門のところにある
リアは呑気な顔で意見を述べる。
「厩舎の人間が忙しかったのでしょう」
「それに、馬車を動かすのに人が必要なら、二人しかいない我らに助けを求めるか? 六人パーティに助けを求めたほうがよいと思わぬか?」
リアはまるで疑った様子がなかった。
「きっと、私たちが二人パーティだとは思わなかったんですよ。でも、大丈夫ですよ。私の勇者技があれば、荷馬車の片側を持ち上げて泥濘から脱出させられますから」
カエサルの疑念は尽きない。
「依頼受け付けカウンターを通さず、見つけたように話し掛けてきたのも変よのう」
「きっと慌てていたんでしょう」
(リアの性格はいいのかもしらんが、疑うことを知らなさすぎじゃ。世間知らずと言われる我ですら、疑わしい点が、これほどある。また、面倒な勇者と組む事態になったかもしれんぞ)
西門は商業地区へと続く門があるので、明るいうちは人通がまばらにある。ブレストの馬車は道から外れて場所にあり、車輪の一つが泥濘に嵌(はま)っていた。
ブレストの馬車の周りには四人の人間がいた。四人は旅の行商人がよく着る厚手の服を着て、顔に布を巻いていたが、腰には剣を佩いていた。
(ブレストの仲間にしては殺気が漏れているのが気に懸かる。それに、四人いれば人の手を借りずとも、どうにか、できるはず)
リアが
「待つのじゃ、リア。衛兵のところに行って、棒を借りてきてくれ。梃子の原理で馬車を動かそう」
リアが元気よく宣言する。
「そんな面倒なことをしなくても、私の勇者技なら簡単に持ち上げられますよ」
「いいから、借りてくるのじゃ。できないなら、パーティを解散する」
リアは不満がある顔をしたが、西門まで走っていく。
カエサルはブレストに尋ねる。
「のう、ブレスト、積荷は何じゃ」
ブレスとは素っ気なく答える。
「ただの酒ですよ」
リアが長い棒を戻ってきたので、棒を受けとる。
カエサルは荷馬車から十m離れたところから、棒を積荷に向かって投げた。
棒が樽に当る。バン! と音がして、積荷が爆発して炎を撒き散らす。
「ほう、よく燃える酒じゃのう。
ブレストの顔が険しくなり、周りにいた四人も剣を抜く。
リアが真面目な顔で悔しがる。
「許せない。私たちを騙したのですね」
リアの体が光に覆われ、筋肉が膨張する。
ブレスストは馬に括りつけていた小ぶりのワンドを取り出す。ブレストが邪悪な笑みを浮かべる。
「ばれたら仕方ない。だが、勇者リアよ、お前はここで、終わりだ。お前の勇者技は知っている。お前の勇者技は、この脱力のワンドで無効化させてもらうぞ」
ブレストがワンドを振ると、紫色の光がリアとカエサルを覆う。
「吸収できる力の量を超えました」とワンドから声がする。ワンドはボンと破裂する。
ブレストが歯噛みして悔しがる。
「何だと、勇者リアの力は、そこまで強力なのか! ケインズの奴め、しょうもない物を渡しよって」
(違うな。我の力を吸収しようとしたのが、原因よのう。所詮は玩具の域を出ない魔道具じゃったか)
リアがブレストに挑み懸かろうとしたが、四人に行く手を阻まれる。
「あばよ、小娘」とブレストは自信たっぷりに叫んで馬で走り出した。
リアが一撃で一人、また一人と敵を倒す。
(リアは大丈夫そうよのう。なら我は、黒幕を捕まえるか)
カエサルは石を拾うと、馬で走り去るブレスト目掛けて投げつけた。
ブレストとの距離は、二百m以上は離れていた。だが、カエサルがちょびっと本気を出して投げた石は、ものすごい速さでブレストの背中に命中した。
ブレストは、あまりの痛さに落馬して、痛みで動けなくなっていた。
カエサルは走っていって、動けないブレストの背後をとる。
ブレストの首を軽く絞めて気絶させた。
振り返ると、リアが敵を担いで衛兵のところに連れていくところだった。
カエサルもブレストを担いで衛兵に突き出した。