第三十一話 サスキアとの結末

文字数 2,421文字

 翌日、冒険者ギルドは魔獣を正式にザザレであると発表した。
 掲示板を確認すると、ザザレの生態や弱点についても書いてあった。
 カエサルは掲示を見ながら思う。
(本来はサバナの奥にいるモンスターで時折、雨季に流されてきてサバナの近郊に出るか。肉は美味く、殻は素材の加工に使われて金になる、じゃと?)

 ギルドに受付のデボラが手招きするので、サスキアと一緒に行くと、小さな袋を渡された。
「ザザレの討伐報酬と素材の代金です」
 中を覗くと、金貨が二十枚も入っていた。
「ほう、一頭倒しただけで、これか。なかなかの金額よ」

 デボラは晴れやかな顔で教えてくれた。
「ザザレは強敵ですが、それだけに、倒すと、お金になるんですよ」
「サバナに雨季があると訊いたが、それは今の時季なのか?」

 デボラが知的な顔で教えてくれた。
「今、時季は雨季に入るのですが、今年は少し遅れているようです」
「遅れているのか? それなら、なぜ、ザザレは街の近くに出たのであろうな?」

「それは、わかりません。ですので、調査を兼ねてまだ討伐依頼を張っています」
「季節外れは何にでもあるからのう」

 カエサルは冒険者の酒場で金貨十枚をサスキアに渡す。
「では、これが、サスキアの分じゃ」
 サスキアは済まなさそうな顔で、密談スペースにカエサルを誘う。
(この流、あまり良い予感がせぬのう)

 密談スペースに来ると、サスキアが暗い表情で切り出した。
「まず、借りていた分を返すわ」
 サスキアは受け取った金貨から二枚をカエサルに返した。
「それと、お願いがあるの、パーティを解散したい」

(金の切れ目が、縁の切れ目か。カイエンたちも、もう戻ってこない。それゆえ、ここで解散すると、また、独りよのう)
「どうした、急に? 勇者育成機関に行くには、まで時間があろう。勇者育成機関に行くまでの間だけでも、このパーティを続けぬか?」

 サスキアは暗い顔で、首を横に振った。
「ザザレの一件で、思い知ったわ。私には圧倒的に実力が足りない。これは、勇者育成機関に入っても同じこと、なら、今からでも、鍛錬に時間を費やしたい」
(殊勝な心懸けではあるが、我にはメリットはない。だが、ここで意を()んでやるのも、仲間じゃろう)

「わかった、では、解散しよう。だが、忘れるな。我とそなたは、かつての仲間だ。何かあったら、遠慮は要らぬ。相談に乗るぞ」
「ありがとう、カエサルくん」

 サスキアは密談スペースを後にした。
 ザザレは危険だが、討伐すれば金になる。そうわかると、積極的に狩ろうとする冒険者が現れた。
 また、討伐時の金額が大きいので、二パーティが協力するなどの兆候が見られた。
 結果、怪我人は続出したが、また一体、また一体、とザザレは狩られていった。

 冒険者ギルドは、ちょっとしたザザレ特需(とくじゅ)()いた。
 カエサルはザザレ狩りを一人でできる実力がある。だが、金に困ってないので、やる気は起きなかった。
(あの手の魔獣は一度、戦えば飽いたわ。他にやる者が大勢おるようだし、任せるか)

 カエサルはまた、パーティ・メンバーの募集が出るまで、サバナで独り採取依頼をこなしていた。
 その日はサバナに薬草の採取に入ると、テレシアを見つけた。
 テレシアは護衛も付けずに独りでサバナに立っていた。
(サバナは今、平穏を保っておる。じゃが、ここは、ドンガレオンの縄張りの内。街まで送ってやるのが親切かも知れぬのう)

 カエサルが近づいて行くと、テレシアは微笑んで挨拶してくる。
「こんにちは、冒険者さん」
「こんにちは、審問官殿。ここは、危険な飛竜ドンガレオンの縄張り。独りでは危険じゃ」

 テレシアは穏やかな顔で応じる。
「知っていますわ」
「ならば長居は無用。こちらは仕事の薬草採取が終わったから、帰るなら付き合うぞ」

 テレシアは微笑むが、寂しそうだった。
「大丈夫です。逃げ足だけには、自信がありますから」
(何か、意味ありげな顔じゃな。それに、サバナに何か用があるらしいの)
「そうか。なら、無理には誘わん」

 カエサルが現場を後にした。走って冒険者ギルドに帰った。
 ギルドの扉を開けて、依頼報告カウンターで薬草を納品していると、テレシアが冒険者ギルドに入ってくるのが見えた。
 テレシアは、おやっ? と不思議そうな顔をする。
(転移の魔法か何かで帰ってきおったか。まずいの、普通ではない脚力が知られたかもしれぬ)

 カエサルはテレシアに気付かない振りをして、冒険者ギルドを出て行った。
 翌日、冒険者ギルドに併設の酒場で食事をしていると、サスキアがよってくる。
「カエサルくん、短い間でしたが。お世話になりました。明日、私たち勇者候補生はホーエンハイムの街を去ります」
「ちと、急な気もするが。そうか、勇者育成機関に行くのだな、達者でな」

「カエサルくんも、お元気で」
 そうしていると、急募の依頼が冒険者ギルドの掲示板に貼られる。
 内容は荷物持ちで、行き先はベルハイムの村。募集人数は一人で、報酬はそこそこ。だが、やりたがる人間は、いなかった。

 夕方まで貼られた依頼だが、やる者がいなかった。
 すると、一人で活動しているカエサルにデボラから声が懸る。
「カエサルくん、サスキアさんの荷物運びの依頼だけど、やってくれないかしら?」
「誰もおらぬなら、やってもよいぞ」

「ありがとう。勇者候補やテレシアさんと一緒だから、安全な仕事よ。ベルハイムの村まで行けば、ザザレは出ないから、そこから先は運送業者に任せて。ベルハイムの村までお願い」
「仕方ないのう。ザザレは狩られているとはいっても、街道が危険であれば、運送業者は二の足を踏むからな。それにサスキアとは知らぬ仲ではない、最後に荷物運びくらい、やってやろう」
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