第四話 ボボンガの調査依頼

文字数 2,370文字

 いったん着替えのために、軽く休憩を挟む。休憩が終えて合流する。
セ シリアは足取りも軽く依頼受付カウンターに行き、デボラに声を掛ける。
「さっき予約しておいた、ボボンガの調査依頼をやるわ」

 デボラが微笑んで応じる。
「これが依頼票になります。頑張ってくださいね」
 カエサルは不審に思った。
(おかしいのう、ボボンガの調査依頼は今朝の話では他の者が受けたはず。なぜ、残っておる? 同じような依頼が、今日に限って二件も入る事態もあるのか?)

 セシリアが明るい顔で依頼票を確認してから、カエサルに見せる。
「カエサルくん、字は読めるよね? 読めないなら、覚えないとダメよ」
「くんは不要に願いたい。あと、文字は学習したから読めるぞ」

 セシリアは感じの良い顔で尋ねた。
「わかった、カエサル。この依頼はどう思う? 率直な感想を聞かせて」
「どう、と尋ねられてものう。生態を調べるなら、捕獲したほうが色々とわかるから、早い。じゃが、この依頼票には捕獲せよとは書いておらぬな」

 セシリアが明るい顔で説明する。
「依頼票の下に書いているけど。依頼人は町の周辺での活動範囲を知りたいのよ。それで、ここが重要なんだけど。依頼票に討伐って書いてない依頼は倒す必要がないわ。捕獲と書いてなければ、捕獲の必要もないわ」
「捕獲も討伐も必要がない状況は理解した。それで、ボボンガとは、いかなる生物なのじゃ?」

 セシリアは得意げに語る。
「ボボンガの体長は五~七m。全身がピンク色で、姿は大型の(からす)のような鳥よ。空を飛んで草食動物を捕食するわ。人間を見ると襲ってくるから、注意が必要よ」
(あまり危険そうには感じないのう。それに、この辺りには、危険な生物はいないはずじゃ。依頼人は学術的調査の手間を省きたいのかもしれん)

「わかった。では、調査に行くぞ」
 セシリアは真面目な顔で注意する。
「待ちなさい。まず、装備が必要よ。暗がりで活動するランタンや燧石(ひうちいし)。野営する時に使うマント。小刀に抗毒薬、それに、ボボンガの痕跡を記す地図なんかも必要よ」

「なるほど、では、買いに行くか」
「買いに行く必要はないわ。今回はセット装備をギルドから買うから」

「何じゃ、それは? もっとわかるように詳しく教えぬか。我は初心者ぞ」
 セシリアが気の良い顔で教えてくれた。
「その地方で冒険に使う最低限の品を纏めて、冒険者ギルドでセット売りしているのよ」
有態(ありてい)にいえば、冒険者ギルドの収入源の一つか。これは、販売ノルマとか、付き合いが絡むのかもしれぬのう)

 内心を隠して、感心した振りをする。
「そんな便利な品を、冒険者ギルドで売っておるのか。便利な世の中よのう」
 セシリアが柔和な顔で財布を取り出す。
「慣れた冒険者は、道具に拘(こだわ)りを持つ人がいるから買わない。けど、初心者にはお勧めよ」

「勧めるなら検討してもよい。して、いくらぐらいする。あまり高い品なら買わぬぞ」
「今回は冒険に出るまでの時間の短縮のために購入するわ。今日はパーティの加入のお祝いに私がプレゼントするわ」
(あまり何でも貰うのは気が引ける。されど、祝いの品を突き返すのも大人げなかろう。ここは素直に貢ぎ物として受け入れてやるか)

「わかった。今回は受け取ろう。じゃが、いつもいつも受け取ると思うなよ」
 セシリアが威勢よくデボラに注文する。
「冒険者セットと消耗品セット上をください」

「消耗品セットに上とか特上とか並とか、あるのか?」
 デボラがにこにこした顔で説明する。
「ありますよ。消耗品セット上は基本セットにプラスして閃光玉が三つ、破裂玉が一つ、抗毒薬が二つ、気付け薬が一つ入っています。非常にお買い得ですよ」

 セシリアが得意げに語る。
「閃光玉も抗毒薬も慣れた冒険者だったら自分で作成できるわ。だけど、初心者が作ると上手くいかないことが多いのよ。だから、最初は買うのが一番よ」
「なるほどのう、一流の冒険者は一人で色々とできないと、いかんのか」

 保存食と胡桃を買い、水筒に水を詰めて町を出る。
 町を出て十五分も歩くと荒野に出た。赤茶色の乾燥した地面が続き、大小様々なサボテンが生えている。また、ところどころに人間より大きな岩が存在した。

 荒野を歩いて行くと、セシリアが軽い感じで話し掛けてくる。
「嫌だったら答えなくていいんだけど、カエサルは何で冒険者になろうと思ったの?」
(誰しも、他人がどうして冒険者になったか、知りたがるか。当然といえば、当然の反応よ。これから寝食を共にしようとする者同士、少しでも相手の事情を知っておきたいと思うものか)

 カエサルは偽らざる心境を教えた。
「そうよのう。我には偉大な父親がおった。父上は放任主義でな。やりたいことは何でもやらしてくれた」
 セシリアは納得顔で相槌を打つ。
「カエサルは、いいところのお坊ちゃんだったのね」

「否定はせぬ。ただ、父上は何でも好きにやらせてくれるが、周りの者が全てにおいて我に気を使う。何か一つやるにしても、お膳立てされた世界。それに嫌気が差した」

 セシリアは納得顔で頷く。
「なるほどね。冒険者はいったん冒険に出れば、頼りになる存在は仲間と己だけ。そんな厳しい世界に憧れたのね」
「そうじゃな。我は自分の力がどこまで通用するか、試してみたい」

 セシリアは厳しい顔をする。
「あえて、きつく言うわよ。力を試したいなんて甘い考えが通用するのは、街の中や吟遊詩人の物語の中だけよ。ここには、もっと辛い現実が待ち受けているわ」
「それは、覚悟の上じゃ。辛いことも楽しいことも、あろう。だが、知らぬで、過ごすはもったいない」
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