第13話 校則破りの致命的な発覚

文字数 1,572文字

佳代は原付バイクで自宅マンションからの長い坂道を下る。急ぎたい訳ではないので速度は十キロかそこらであり自転車にも追い抜かれていくが、前方下方に流れるD川の風景を楽しめるし、ふとした考え事をするにもちょうど良い。

A高校の制服を着た生徒が大通りを横切っていくのが見える。もしかしたら川畑だったのだろうかと思ってしまったのは、佳代がその頃毎日のように川畑のことを考えていたからだった。

生徒会長でクラストップクラスの成績を誇る川畑。真面目で周囲からの信頼も厚い彼が、佳代を執拗に攻撃し、高校から追い出そうとまでするのは何故なのだろうか。そう考え始めると止まらなくなるのだったが、何度考え直しても、極めて都合が悪い事実を隠そうとしているという結論にしか至らなかった。

佳代は前方を流れるD川を見ながら、駒場と川畑の間にあったかもしれない事を想像しようとする。彼らは共に成績上位者でありクラス内で同一のグループに属していた。駒場は水泳部で、川畑は生徒会長。職員室で担任が漏らしていたのは駒場と川畑の間に諍いがあったのかもしれないということ。

佳代は美優やその他数名の女子と一緒にいることが多く、男子たちの行動を目にする機会は限定的だったが、少々緊張感のある場面に出くわしたことがあった。しかしそれは他の生徒たちの間でも目にしたし、だいたいスーパー勤務のときにもパート同士で言い合いに日々接していた佳代にはそう珍しい事態には思えていなかった。

ただ駒場と川畑は帰宅後夜中に外出してまで会うような関係性であった訳で、そういうとても親密な場でどんなことが起こっていたのかは分からない。表面的には平穏でもSNS上で罵倒しあう者たちだって最近はいるのだろう。

そんな風に佳代が考え始めたとき、ちょうど坂道を下り終えたところの交差点があり、青信号が見えていた。そして次の瞬間、右後方から佳代を抜かしていく自転車が視界の端に入ったのだった。

佳代は、考え事をしているのでお先にどうぞ、くらいに思ったことを覚えている。しかしその自転車は急に進路を左へと取り、それはつまり佳代の進行方向に覆いかぶさる動きをした。

ぶつかる。佳代がブレーキレバーを握ったすぐ後に自転車に衝突した。A高校の制服の男子がバランスを崩すのが見えていて、ヘルメットから覗く顔には見覚えがあった。

佳代の衝突したのは、川畑だった。

咄嗟にハンドルを切っていた佳代の原付バイクは佳代を乗せたまま、前方の自転車と重なって数メートル横滑りをし、途中で自転車に乗っていた川畑が道路に転がり、道路には彼のリュックから落ちた教科書等が散乱した。

佳代の腕には擦りむいた痛みが走っていたが、大変だと思って起き上がり川畑に駆け寄る。彼は丸くなり唸っていた。

近くにいた制服姿の誰かが救急車を呼んでいた。佳代は混乱していて、川畑の名を呼びながらもそれ以上どうしていいか分からなかった。

すぐに救急車が到着し、川畑は運ばれていった。同時に駆けつけていた警察官に佳代は事情を聞かれた。

「何が起きたのか私にも……気が付いたら自転車の川畑君と一緒に転んでいて。あぁ、彼の荷物が落ちたまま」

佳代は落ちていた川畑のリュックを拾い上げ、散乱していた教科書や筆箱を収めていくが、警察官が自分たちがやるからと制止した。

「すみません、すみません」

佳代は謝りながら、川畑のことが心配で仕方がなかった。警察官がリュックをどこかに持って行くのをみながら、まだ地面にノートが落ちているのに気づき、拾い上げる。するとノートからアルミ箔シート状の薬が落ちた。いくつか使われた状態のものだった。

佳代は混乱したまま、立ち尽くしていた。警察官はノートも持って行ったが、佳代は薬のことを伝えるのを忘れ、次に来た救急車に念のためと乗せられ病院で処置を受けたあとも手に持ったままだった。
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