第28話 校長先生

文字数 517文字

探偵事務所の所長酒巻は、探偵志望だという連れの女性がバーのトイレに立ったタイミングでマスターに会計を頼んだ。クレジットカードを渡し、それが戻ってくるのを待って立っていると、奥のソファーに座っていた五十代くらいの男性が近寄ってくる。

「校長先生、奇遇ですね、ここは私の行きつけなのですよ。まさかお会いするとは」

男性は丁寧に頭を下げた。

「私は初めて来たんです。いやあ、確かに奇遇だ。前にお会いしたのは、教育委員会でしたかね」

「そうです、そのとおりです。教室で起こる不正行為というテーマで議論したんでしたかな」

「実践に基づく情報はとても有益で、だから我が校でも同様のことがないか調べているところなんです」

「人が死んでしまうというのはそうあることではないと思いますよ」

酒巻はそれだけ答え、トイレから連れの女性が出てきたので、男性に頭を下げて店を後にする。

「知り合い?」

女性が酒巻に尋ねた。

「ちょっと仕事上のね」

「もしかして……探偵さん?」

「いや、そうじゃないよ。探偵は……今頃は明日の授業に備えてもう眠っているんじゃないかな」

「もしかして、それって高田佳代さん?」

酒巻は明言はせずに、タクシーに手をあげて止め、一緒だった女性を家に帰した。

(完)
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