第1話

文字数 333文字

 佐分さんの第一印象はというと、これといってない。
 強いて言うならば、電話で聞いた声と実物に、何となくギャップがあったことぐらいだ。
 いつから彼に惹かれたのすら、よく覚えてはいない。
 それなのに、佐分さんはあまりにも長い間、私の心に住み着いてしまった。

 出ていって!もう会えないくせに!
 どんなに言い聞かせても、かりそめの恋人が出来ても、佐分さんのことを一瞬でも思い出さない日はなかった。

 私たちの出会いは、三重県内にあるメンタルクリニックでのこと。
 壊れかけの心を抱いて、効果があるかどうかもわからぬまま、グループセラピーに参加していた私。
 それなのに、いつからか楽しいと感じるようになった。
 あまりにも単純な話だが、それはきっと、佐分さんに惹かれ始めていたから。
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