第3話

文字数 902文字

☆☆☆


「ああ、ヴァーチャル治療を受けてたんだっけ……」ヘッドセットを外し、上半身を起こす。
おれはこの暗い部屋が病室だと気づいた。
 ストレスケア用ヴァーチャルゲームを病院でしていた。砂漠の戦車群と戦ったのは、そのゲーム内で、だ。
 最近、どうもテディ・ベアになる幻覚を見る。それが白昼夢なのは知っているが、医者には伝えていない。まー、伝える必要もないだろう。
 治療は順調。ここら一帯で四年前に起こった〈雨月市小学校銃撃事件〉の影響で、町に住む子供のストレスのキャパは並々オーバーし、重い精神疾患を発症したケースが頻発。
 そこからバーチャル治療が義務づけられた。
 それからはや四年。小学六年生だったおれも高校一年生。近所の高校に入学した。
 ヴァーチャル療法ってのは、ゲーム療法の一種だ。社会性も取り戻せる効果もあって、おれたちはゲーセンに集まるように、平日の数日、ゲーム療法の治療を受けに、病院へ向かう。
 そして、夜中までゲームをして、帰る。
 夏になった今は、午前中部活、午後は夏期講習で、それが終わったら遊ぶかヴァーチャル療法だ。忙しいのはいいことだぜ。
 なんつーか、ストレス障害だって自覚も、特にないんだけどな。おそらくはモデルケースとして、『実験』してるんだと思うんだ、病院や行政側は。
 でもそんなの知ったこっちゃない。
「島崎さん。今日はもう帰宅して大丈夫ですよ」
白いカーテンに囲まれて、ベッドに寝ているおれに、女性看護師が声をかけてくる。「みんなは」
「目覚めたのは島崎さんが一番最後。みなさん、帰られましたよ」
「なるほど」
「夜遅いから早く帰るように促してるだけですからね。仲間はずれなんかじゃないですからね」
「わかってますよ」
 病院を出る。そして、帰宅した頃には午後十一時を越していた。
 明日も学校だ。七月も終わる。夏はこれからだなぁ。
 家に帰ると茶の間にテレビがついていて、深夜のバラエティ番組を映し出していた。冷蔵庫からコーラを取り出して飲んだ後、誰がつけっぱなしにしていたのかわからないバラエティをリモコンで消す。
 消すとバラエティの笑い声も消えて、家が静まった。
 おれは自分の部屋に戻っていく。
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