第5話

文字数 1,821文字

☆☆☆

「自分の言葉で書け! 借り物の言葉なんて駄目だ。おまえは脳髄までコピーアンドペーストだな!」部活……。
 くそみたいな罵詈雑言は今日も飛んでくる。
 部長・宗谷ナタクのいびりが、始まった。
 おれは耳をふさぎながら、
「あー、あー、そーっすねぇ」と頷く。
 この宗谷ナタクという奴は、ショタコンのお姉様方が喜ぶような低身長眼鏡お坊ちゃま刈りというショタフル装備なのだが、なにぶん性格が悪い。
 今も短編小説を原稿用紙に書いてるおれに、自分の言葉で書け、とか叱ってるだけのように見えて、これを肴に、おれの見えないところで悪口オンパレードなのだから困ったものだ。
 なぜわかるかというと、その場にいない人間の粗を拾うを言うのが大好きなので、十中八九これをネタにぎゃーぎゃーやる。それが、あとで告げ口として耳に入ってくるからわかるのだ。学校の友情なんてそんなもんだ。
 正直、ついていけん。
 創作系の部活であるこの〈四コマ部〉は、この部長のナタクのおかげで繁栄を築けたと噂されているし、この先輩がいることは心強い部分はあるものの、どうも据わりが悪い。ということでおれは、「頭冷やしてくるっす」と言って、部室を出た。
 部室の時計をちらりと見やると、午前十一時。お昼前だけど、飯でも食っとこうか。
 県立・雑伎高校。おれは雨月市に二つある高校のひとつである雑伎高校に通っている。どういう高校かというと、おバカ学校である。不良も多いし、頭も悪い。
 市内にもう一つある高校、天一高校は県下一のエリート校。同じ雨月市にあるとは思えない感じだ。
 一応雑伎高校は文系、天一高校は理系でわかれてるんだけど。文系、これじゃ壊滅的だぜ。人様のことは言えないけれども。夏期講習で最下位独走のおれにはな。
 十一時。購買のおばちゃんがいる食堂で総菜パンを二種類買う。
 カレーパンと焼きそばパン。濃ゆい組み合わせだぜ、とか思いながら。
 そしてコーヒー牛乳も買ってから、学校の本校舎屋上へと向かう。
 階段を上り、三階と四階の踊り場まで来て上を見上げると。
 おれの頭上に少女が上の階段から飛び降りてきた。
 おれの頭上に、めくれたスカートからのぞく白いぱんつが迫ってくる。
 おお!  ……と興奮するまもなく、顔面にぱんつというかおしりが落ちてきた。
 顔面で支えきれるわけはなく、おれは踊り場で尻餅をつく。その後、顔面におしりが乗っかっているその重さで、顔を床に強打した。
 しかもロングスカートの中に顔が入っているものだから、周囲が見えない。犯罪者ではないということでぱんつから離れる。
 四つん這いでスカートの外に出ようとしたら手を滑らせ、踊り場から階段におれは転落した。
 つまり、三階へと降りる階段を転がり落ちたのだ。
 ごろごろと滑り落ちる。痛い。すごく痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。
 どうにか止まったところで、今度はさっきおれの顔面に不時着してた少女がダッシュして階段を降りて行く。幼い少女とは思えない身のこなし。
 そして、おれはそいつを知っていた。
 その女の子、を。名前は。
 壱原ラズリー。
 おれとラズリーの目が合う。
 するとラズリーはおれに〈あっかんべー〉と舌を出して、それからおれの元を離れていった。
次いで上の階からダッシュで降りてくるのもまた奇怪な奴らで、市内のもうひとつの高校、天一高校の〈魔女〉と呼ばれている二人組、空木(うつき)スルフルと天能(あまの)メルクリウスだった。なんで他校の、しかも魔女っ娘さんがここに? って感じだが、それを言ったら夢の中の存在であるはずのラズリーが『実在していた』ので、すでに驚きを超えている。
どうなってんだ、こりゃ。
 わからない。自分の身体の痛みが戻ってきたところで、総菜パン二種類とコーヒー牛乳の無事を確かめる。
 三階と四階の踊り場に、ビニール袋に詰まって、そのままあった。よかった。
 ちなみに今日は七月最終日。
 夏の予感なんぞが、するようなしないような、不思議な感覚がした。
 酩酊感がおれを襲う。
 だが、ここで白昼夢は見ない。
 おれは屋上はあきらめてその場で、地べたに座って食事をすまし、さっさと四コマ部の部室に戻った。
 スルフルとメルクリウスには、夏期講習で会う。そのときに話しかけてみよう、と思った。最下位が成績最高ランク二人組に話しかけるのも嫌な気分になりそうだが。
 鼻であしらわれたりしてな。
 が、その前にまずはナタクの説教でも聴こうか。ショタ野郎様の。
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