第10話

文字数 895文字

☆☆☆


 ギャルバン、とは。
 ギャルがやるバンド、つまりは女の子だけで編成されたバンドのことを指す。
 おなかの中にずしりと響くドラムを叩いているのは、ゴリラ娘こと、楢岡くるる。そこに空木スルフルのスラップベースがはね飛ぶ。
 スラップベースというのは、跳ねたリズムを出すのに使う技法だが、こんなんおれは生でははじめて聴いた。指を強く弾くことによる奏法だ。
 雨能メルクリウスのつんざくファズが効いたギターがリフを奏で、そこに、四コマ部の反則女、反田蝶子のキーボードによるパッドサウンドが乗っかっている。
 説明すると普通の曲っぽいが、これを軽音部でも吹奏楽部でもないこいつら女子高生が奏でているのは、どきどきするものがある。オタク根性で応援でもしたくなる。
 が。
 前奏が終わる頃、おれと一緒に部屋に入ったひばりがフロントマンとしてマイクスタンドの前に立つと、オタク根性は粉々に壊される。
 殺気がみなぎっている。
 殺気の塊であるひばりが口を開く。
 歌がはじまった。
 殺気はバンドメンバー全員に伝播し、グルーヴを生み出す。
 女の子だけバンドやってまーす、というマニア向けの設定は、ことごとく破壊される。そこにあるのは、本物の〈バンド〉だった。
 そもそもが〈ギャルバン〉というのは、蔑称である。だが、蔑むのは、聴いた以上、おれには無理だ。本物過ぎる。
 プロの歌手が歌ってるからなのか。
 こいつらがすごいのか。
 門外漢のおれにはわからない。
 だが、こいつらの破壊衝動が本物であり、衝動こそがバンドのすべてなんだと思ってるおれには、これを聴いた時点で、頭の中は空っぽ、もう帰っていいような気さえしてくる。
 おれは曲が終わるまでの間、その場で呆然と立ち尽くすしかなかった。
 心が震えるだけでなく、身体もぞくぞく震えた。鳥肌が立ち、頭の中がジューサーミキサーにかけられたような体験をした。
 曲が終わる。
 それは歌手である谷沢ひばりとは全く違う生々しいサウンドだった。
 阿呆みたいだろう。
 今時音楽なんて流行らない。
 でも、バンド小説ばかり書いて、そして本物のバンドに触れて感動してる奴が、ここに一人、いるんだぜ。
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