第2話

文字数 1,222文字

☆☆☆


「やっとお目覚めかぁ?」
 照りつける太陽のまぶしさに目を細め、おれは相手を見る。その男はガムをくちゃくちゃさせながら手にウォーターガンを持っている。どころか、おれもまた、同じウォーターガンを手に持っていた。こともあろうにおれは、自分の足で立っていた。白昼夢でも見ていたか。
 しかし。
 暑い。むせかえる暑さ。
 ここは砂漠だった。
「いい夢でも見てたんだろうな。顔がにやけてたぜ。まー、んなことしゃべってる場合でもねーな。いよいよアイザワタカシの野郎のお出ましだぜ」
 男がそう言って口笛を吹く。男の視線の先、地平線から出る陽炎の中、ゴゴゴゴゴゴゴ、という音が振動とともに聞こえてくる。
 そして姿を現す戦車、戦車、戦車。
 視線の先だけじゃなかった。
「アイザワタカシの奴、包囲してやがったか。どうりでこのフィールド、敵が少ねーわけだ。全部一気に出てきておれたちをつぶしにかかる気だ。大人げねー、大人げねー」互いが互いの背中を預けるようにして立ち、ウォーターガンを構える。
 ってか、ウォーターガン? 相手、戦車なんですけど。
 そう思ってるうちにも、全方位から戦車が詰め寄ってくる。
 そして、拡声器から、敵の声。
「今回のゲームは我が校が勝たせてもらうぞなー。そっちの高校の戦車部隊には全車両、沈黙してもらったぞな。残るはおまえらだけぞな!」背中からぼそりと声がする。
「旗が立ってる戦車、あるだろ。あれだけ狙おう。ボスのアイザワタカシが乗ってる車両だ。なぁに、こっちはなんでも溶かす酸が詰まったウォーターマシンガンがあるんだ、ミサイルランチャーと同等だろ。今回のゲームにゃうちのメンバー、金かけられなかったからな。スネイクよろしく隠密戦法で行くしかなかったわけ。でも、総大将は引っ張り出してきた。それだけでおれたちゃ功労賞だ」
 ぷぷ、と笑う背中越しからの声。おれはこいつが藤田左京という名前の男だと思い出す。「下手な小細工はなしだ。別々の方向から攻めて崩すだけ。作戦は必要なし。ボスを倒す。
いいな」
「ああ」
 頷くおれ。
 それに頷き返す左京。
「いっせーの、せ!」
 左京の合図と同時に砂漠を突っ走るおれたち。
 砂漠を走るのは至難のわざだ。だが、そうも言ってられない。どうも、旗を立てた戦車を倒さないとならないらしいからだ。
 ウォーターガンを発射すると、戦車が溶ける溶ける。
 そうして進行方向にいる戦車だけを先制攻撃で溶かしていくおれ。
 戦車の砲弾で弾幕が張られてしまうが、それも好都合だった。
 おれには見えたのだ。弾幕の中、敵のボス、アイザワタカシという男の乗る車両が。
 ……おれは引き金を引いて、酸をアイザワタカシの戦車にぶちまけた。
「もう、怒ったぞなー」
「怒るのが遅すぎたんじゃねーの?」
 いつの間にか、戦車から顔を出したアイザワタカシの顔面にウォーターガンの銃口を突きつけている左京。
「消えな……」
 そして、酸がアイザワタカシの顔面にぶちまけられ……。
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