第7話

文字数 713文字

☆☆☆


「お姉ちゃんは間違いないじゅる。この世を統べるべきだったじゅる」少女が自室でおれを抱きしめる。正確には、テディベアのペティを。
 お姉ちゃん、と呼ばれたその人物は、厳つい身体をした女子だった。身体の力強さを感じるが、精神は弱そうだ。ちょっと陰のあるスポーツ少女、という感じ。
「お姉ちゃんは偉大じゅる。わたしの崇拝の対象じゅるる」
 中二病と呼ばれる、思春期特有のかっこつけ言語に支配されてそうな、今日のラズリーは、じゅるじゅる言いながら、厳つい〈お姉ちゃん〉を褒めちぎる。
〈お姉ちゃん〉が、ラズリーの口元に顔を寄せる。
「黙って。あなたの言葉も、〈あのひとたち〉の言葉と同様に、わたしを傷つける」
「じゅる……」
 二人はそのまま、くちづけを交わす。
 唇が離れたあと、〈お姉ちゃん〉は、指先でラズリーの唇をなぞり、なぞった指を自分の舌先でなめ取る。
「わたしのこと、忘れないでね」
 ラズリーの、テディベアを抱きしめる腕に、力がこもる。
 おれはなにか発声をしたいが、それもかなわない。この姉妹はなんなんだろう。おれはここにいてはいけない気分になるが、しかし、テディベアの瞳は二人を見続けるのをやめようとしない。
「戦争じゅる。こんな国は滅べばいいじゅる。今度神社に、こんな国は早く滅びますように、って願って五円玉でも賽銭箱に入れてくるじゅる」
「国が滅ぶのと、わたしをさげすむひとたちが滅ぶのは、イコールでは結ばれない」
「でも! こんなのってないじゅる!」
「ラズリー。わたしが魔法をかけてあげる。絶対に負けない魔法を」
「じゅるる……」 ラズリーがペティをフローリングの床に落とす。
 二人の身体が重なるのを、床に転げながら、おれは見続けた。
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