第19話

文字数 876文字

☆☆☆


 おれはずっと、刑務所、または隔離病棟に入っている夢を見ていた。そこに割り込むように、徐々に徐々にそれを浸食してきた、壱原ラズリーの出てくる夢。でも、壱原ラズリーは、刑務所とこの現世を結びつけてしまった。
 いや、ここが〈現世〉ではない、と。バーチャルな世界なのだ、と。おれたちがやらされているゲーム療法とは、世界を構築して、そこで送る生活そのものなのだ、と。いつもやってるおれらのゲーム治療とは、茶番なのだ、と。
「そうは言うけどさ」
 藤田左京はウォーターガンを分解掃除しながら、異を唱える。
「やっぱここがおれらの世界だと思うぜ。本物だとか偽物だとか、そういうことじゃない。生活空間と、今いるここ、遊戯空間は、おれたちの人生に立脚してるじゃねーか。だったら、そういう意味で本物だし、それが偽物だからって、偽物じゃ悪い理由なんてあるのかよ。なぁ、シリアルキラーの島崎よ」
 ブラシで銃の筒を磨き、また元に戻す。弾詰まりというか、水つまりをさせないためだ。
「さて。今日はジャングルにいるんだが。おい、島崎、くれぐれもブービートラップには」
「うぎゃあああああああああぁぁぁぁ」
「ああ。もうトラップに引っかかったか。これじゃおまえが今日は一抜けだな」今日のゲーム治療、おれはすぐに敗退した。


☆☆☆


 八月四日金曜日の深夜。
 ゲーム療法の治験が終わり、帰宅したおれは小説を書き進める。なんとか今週中に、掌篇小説を書き終えることが出来そうだ。
 今週と言っても、明日は土曜日なのだが。
 部活で草稿を仕上げて、夜、ワープロソフトでタイプして書き上げよう。
 なんだか今まで、おれは無菌室にでもいたような気分だ。そして、今、その無菌室から出ようとしている。
 夏祭りは八月六日の日曜日だ。
 明後日が、祭りというわけだ。
 なんだか濃い一週間になってる。
 これが本来の〈夏休み〉なのだろうか。なにか凝縮された果実のような。これが。
 書く。書く。書く。
 おれは深夜を、詩の女神に捧げる。
 おれの小説が、天まで届くように。
 おれの言霊が、もっと響き渡れと。
 ただ、おれは、書くんだ。
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