第16話

文字数 1,095文字

☆☆☆


「こいつ、本当に添い寝してやがったな……」
 窓の外には日差しがさしていて、病室の外も、騒がしい。朝になったのだ。
 おれのベッドに、椅子に座りながら上半身で倒れ込むようにして、ナタク部長はおれの胴体を枕にして眠っていた。
「起きろ、部長」
「んあ? ああ、朝か」
「ちょっと頭どけて」
「悪いな」
 上半身を起こすナタク。
 二人で寝ぼけていると、女性看護師さんがやってきて、おれに、これから検査だ、という。なにを検査するっていうのか。
 看護師さんにせかされて立ち上がろうとすると、ナタクは言った。
「検査終わったら行ってみろよ、待ってるぜ、ひばりたちのギャルバン。もちろん、愛しのラズリーちゃんも、な」
 気が重くなる一言だった。だが、避けては通れない。
 まず、病院で変なことを口走ったら入院は目に見えている。黙って検査を受けて、それからまた練習なりなんなりに赴こう。
「部長」
「わかってる。いろいろあるだろう。が、約束は約束だ。小説、完成させろよ、今週中に」
「催促があるってのも、うれしいもんだな」
「ああ。普通は小説を催促されるなんてことは、ないさ。よかったな、環境がよくて」
「環境がいい、か」
「恵まれてるぜ、おまえは」
「なんでそう思う」
「おまえの入ってる部活の部長がおれだからだ」
「いつもぴりぴりしててすぐ怒るくせに、なにを言ってるんですか、部長。……でも、今回は恩に着るぜ」
「島崎がこんなに長くおれとしゃべるなんて、もしかしたらはじめてじゃないか」
「そーでしたかねー」
「そーだよ」
 一呼吸置いて。
「さ、行ってこい、島崎。検査に。おれは帰るから」
「はい」
 おれは立ち上がる。一瞬足下がふらついたが、体勢をすぐに立て直す。締め付けられてると思って見てみたら、頭と手に包帯がぐるぐる巻き付けてある。針で縫っただろうな、これ。
 昨日の失態に顔が真っ赤になる。が、それは恐怖とない交ぜだ。だから、恐怖の部分を、今はしまう。
 しまう内容とは、「おれが銃撃事件の犯人である」という仮定のことだ。fMRIで脳みそを調べる。異常はない。
 医者は、
「異常はないが、異常があるのだ」
 と、言う。つまり、精神的な病の話をしているのだろう。そして「かもしれない」ではなく、「あるのだ」と断定している。
 おれは鎮静剤を打たれた。
 一日、寝ていろ、ということらしい。
 うちの家族は面会には来ない。当然だ。おれみたいな奴。関わり合いになりたくないだろう、家族とか言っちゃって、どこがですか、ってな。
 おれは八月二日を、眠って過ごす。検査の結果はすぐに出た。
 明日は家に帰ってもいいそうだ。
 おれは釈然としないまま、眠りに落ちる。
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